第3話(10:26)

「で? ほんとに何しに来たの?」

「遊びに来たんだよ。他の中学行くこととかないから」

「誰と来たの? さいわいちゃんと禰々ねねちゃん?」


 祺ちゃんと禰々ちゃんというのは、まつりの妹たちだ。ボクも何度か会った事がある。とても活発な子たちだ。


「一緒に来たのは確かなんだけどな。昇降口入って、パンフレットもらったらもうドロンさ」


 かっこよく言っているものの、要ははぐれてしまったということだろう。


「そんなにでかい図体して迷子って、笑えるわね」


 雑巾をお客さんに見えないところに片付けて、祭に向き直る。


「で? 誰と回るの?」

つばさと」

「ボクは仕事なんだって」

「受付の子に聞いたら良いって言ってたぞ」

「でも、そしたら…」

「ずっと働いてるんだろ? 抜けたって文句言われないって。ほんとは何人かでやるとこ一人でやってるんだし」


 行こうぜ。


 そんな風に、昔通りの表情で微笑する。

 思わず断りきれなくって、ついて行ったのが運の尽きだったな、と今になって思う。 ――もう手遅れなのに。


 廊下に出て、人の数に思わず圧倒された。さっきもここを歩いてきたという祭は、何も感じていないような顔をしている。


「うわ…人多いね」

「それだけ人気あるってことだ」

「まさか。ここ都立だよ」


 紅都こうと立高校付属中学校。完全中高一貫化したことで定員数が増えて、ちょっと人気は出たけど、どっちかって言うと人気はなくなってきている。


「今度、別の高校の文化祭も行ってみろよ。面白いぞ」

「誰と行けって言うのよ。ボク友達いないんだからさ」

「……」


 祭は二秒くらいボクの目を見たあと、至って真面目な顔で


きぬがささん?」

「誰がお兄ちゃんと文化祭行くのさ。せめて祭と行くよ」


 嬉しそうな顔でもしていないかと覗いてみるけど、祭はいつも通りの無表情だった。つまらない。


「何か見たいところでもあるの?」

「翼はないのか? 友達のクラスとか」

「……じゃあ、一クラスだけ」

「行こう行こう」


 祭なんかと行ったら、後で噂されそうで気は引けたけれど、せっかく時間が空いたから、行くことにする。

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