15 イケメンだ

何となくそわそわする気持ちを抑えつつ、いつものように席について、いつものように鞄から教科書やノートなんかを出しながら、ちらちらとドアの方を窺う。


「おはよー」

「昨日お笑い番組やってたの観たか?」

「数学のプリントの最後の問が難問でさ……」


楽しげな、もしくは憂鬱そうなクラスメイト達の会話を聞きながら、何度も何度もドアの方を向いては前に向き直ることを繰り返す。

いつもならもうとっくに登校している時間なのに、今日もまた水無月くんの姿は見えない。


「昨日の今日だもんな……さすがの水無月くんでも」


諦めの混じった気持ちで呟いて机に顔を伏せると、しばらくしてとんとんと柔らかく肩を叩かれた。

またクラスメイトの誰かが、水無月くん不在で落ち込んでいると勘違いして慰めに来たのだろうか……だとしたら激しく見当違いだから放って置いて欲しい。

寂しいのでも、落ち込んでいるのでもなく、今日も水無月くんはお休みなのかどうか、ほんのちょっと気になっているだけなのだから。


「おはよう、瀬戸さん」


聞こえてきた声に、条件反射で勢いよく顔が上がった。

見上げた先には、残念さを微塵も感じさせない爽やかな笑顔を浮かべた完璧なイケメン水無月くんが、当たり前のように立っている。


「み、水無月くん!?」

「うん、おはよう」


驚きで勢いよく体を起こすと、水無月くんはいつものように当たり前のような顔をして隣の席に座って、こちらに体を向ける。

この席の本当の主はついさっき、一時間目の教科書を忘れてきたと血相を変えて、隣のクラスに走っていくのを見た。


「瀬戸さん、おでこに跡がついて赤くなってるよ」


自分の額を指差して、水無月くんが可笑しそうに笑う。

昨日風邪を引いて休んでいたとは思えない、随分と元気そうな笑顔だ。


「あっ、そうだ瀬戸さん!これこれ」


突然水無月くんが、何かを思い出したように鞄をあさり始める。


「じゃーん!」


楽しそうな水無月くんが取り出したのは、“大人な苦味のコーヒー牛乳”なるもの。

取り出した二本の紙パック入りコーヒー牛乳を私の机に並べると、あとは嬉しそうにひたすらにこにこ笑っている。

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