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『ほんとに仲良しだねえ』
なんて呑気に笑う友人は、私がパンよりご飯派であることを知っていながら、そんなことを言うのだ。
でも心の中ではなんだかんだ言いながら、私は結局水無月くんが置いていったパンを黙って食べる。
『美味しかった?それね、駅の近くのデパートの地下にあるパン屋の新作パンなんだけど、試食させてもらったらすごく美味しかったから、瀬戸さんにも是非食べてもらいたくて!』
そう言って嬉しそうに笑って、聞いてもいないのにオススメのパンについて語り出す。
水無月くんはいつだって自由奔放で、残念なイケメン街道まっしぐらなのだ。
そんなマイペースで変わり者な水無月くんだからこそ、困ることも大変なこともあるが、一緒にいて楽しいことも実は多かったりする。
はぐはぐとおかかのおにぎりを食べながら、誰もいない隣の席を見つめる。
頭の中には、こちらを向いて笑う水無月くんの姿があった。
体調が悪い時にメールをするのも迷惑だろうと思ってあえて連絡はしていないが、今頃彼はどうしているだろう。
まだ、ベッドの上で熱にうなされていたりするのだろうか……。
「なんだ瀬戸、まだ残ってたのか。せっかく水無月がいないんだ、早く帰って勉強でもしたらどうだ」
私しかいない教室を覗いて苦笑するのは、いつだったかの幽霊探しの時に見回りに来た教師だった。
「まあ、相方がいなくて寂しいのはわからんでもないが。とにかく、今日は下校時間が過ぎるより早く帰れよ。また見回り中に会うのはごめんだからな」
そう言って笑って去って行く教師を見送って、それもそうだなと私も席を立つ。
私だって、同じ人に何度も説教をくらうのはごめんだ。
それに今日は、家に帰ってからやりたいこともたくさんある。
おにぎりのフィルムをコンビニの袋にしまって鞄に押し込むと、その鞄を持って教室を出る。
最後に一度だけ振り返って見ると、一番に私の隣の席が目に入った。
「寂しくない、寂しくなんかないけど……」
誰もいない廊下で、それでも誰かに聞こえてしまわないように細心の注意を払って、小さく小さく呟く。
「水無月くんがいない学校は…………何だかつまらない」
水無月くんのいない平和で幸せなはずの一日は、思っていた以上に平凡で退屈なままに、こうして終わりを迎えた。
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