12

放課後を告げるチャイムが鳴り響いて、クラスメイト達はすっきりした顔で教室を出て行く。


「また明日ね、瀬戸ちゃん!元気出すんだぞ」

「明日にはきっと水無月くんも来るだろうからさ」

「ばいばーい!一人の帰り道は気を付けないとダメだよー」


好き勝手なことを言いながら去っていく友人達を見送り、深く深く息を吐く。


「瀬戸さ、今日はため息多いよな」

「しょうがないだろ、今日は水無月がいないんだから。なあ?瀬戸」

「なんか水無月がいないと、心なしか教室が静かに感じるよな」

「なるほど、それでか。俺も、今日はなんかいつもと違って静かだなって思ってたんだ」


水無月くんにいつも占領されている隣の席の男子と、その友人達にも慰めるように声をかけられ、言い返すのも面倒くさくて適当に相槌を打っておく。

それぞれに部活や遊びや真っ直ぐ家にと散っていくクラスメイト達を見送っているうちに、気がつくと教室に一人ぼっちになっていた。


「……元気なら有り余ってるし、別に寂しくなんかないし、確かにちょっといつもよりは静かだったかもしれないけど、でもため息だって言うほどたくさんついてないし。それに水無月くんがいない放課後は、いつもより早く帰れるから全然……心配、いらないし」


私以外には誰もいない教室で、誰に向けているわけでもない言い訳をずらずらと並べ立てながら、隣の席をぼんやりと見つめる。

水無月くんの席は本当はそこではないけれど、いつだって登校してすぐにやってくるのがその席だったから、自然とそこに視線が向かってしまう。


「水無月くんがお休みなおかげで、とても平和な一日が過ごせました」


誰もいない席に向かって、ぽつりと呟いてみる。

教室には静寂が満ちていて、いつもならそこに楽しげに今日の予定を語る水無月くんの声が響くのに、今日はそれが聞こえない。

本当にちっとも、これっぽっちも寂しくなんてないけれど…………少しだけ、本当にほんの少しだけ、何かが物足りない気はしている。


「……お腹でも空いてるのかな」


水無月くんから意識を逸らすように、お昼に食べきれずに残したおにぎりでも食べてから帰ろうかと鞄に手を突っ込むと、指先に当たった物を掴んで引っ張り出す。

ガサッと音を立てて出てきたのは、目当てのおにぎりではなく、いつだったか水無月くんからもらった“チョコチップたっぷり!チョコチップパンのようなメロンパン”の新商品“いちごチョコチップたっぷり!もうほとんどいちごなメロンパン”だった。

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