眠過ぎて完全に開かない目は半開きで、とてつもなく凶悪な目つきをしている自覚はあるが、水無月くんは特に気にした様子もなく、私が話を聞く体勢になったことをただひたすらに喜んでいる。


「じゃあまずは、今朝登校中に出会ったサブさんの話からね!」


“サブ”と言われて、頭の中にはゆったりとした足取りで歩く柴犬の老犬が浮かんでくる。

きっとすぐに犬に結びつけてしまうのは、この間のマルチーズ話のせいだ。

それに水無月くんは動物好きだ。

爬虫類も両生類も魚も虫も、生きているものはなんだって好きで、もちろんその中には人間だって混じっている。

秀才は私みたいな凡人とは見えている世界が違うのだ。


「サブさんってばね、すごく大きいのにスピードが速くて、見つけてもすぐいなくなっちゃうんだけど、今日は運良く交差点の手前にいるところを見かけたんだ!」


一瞬で頭の中から柴犬を消し去り、代わりにもっと大型の犬を思い浮かべる。

でも元々犬には詳しくないから、思い浮かべる犬種にも限界があるけれど。


「お仕事中だから邪魔したらいけないなって思ったんだけど、最近中々見かけなかったからつい嬉しくなって、写真撮らせてもらっちゃった」


えへへと嬉しそうに笑ってみせる水無月くんをよそに、まだ半分眠っている脳内で、大型の犬に様々な仕事着を着せてみるが、どれもあまりぴんと来ない。

そもそも、大きくてスピードの速い仕事中の犬とは何者なのか……。


「やっぱりサブさんはすごいね、あんなに大量の荷物を乗せて走るんだから。それも、北は北海道、南は沖縄まで走るんだってよ!船に乗って海も超えちゃうんだってよ!本当にすごいよね」


私の頭の中には今、巨大なリュックを背負って高速道路を物凄いスピードで駆け抜け、時には汽笛の鳴り響く船の甲板で潮風にあたる大型犬がいる。

車と並んで走っていたその犬が急ブレーキをかけて立ち止まった瞬間、手の上からガクッと顎が落ちて、その衝撃に目が覚めた。


「今度見つけた時は、瀬戸さんにも紹介するね。あっ、それとも今日の放課後捜しに行こうか!もしかしたらまだその辺を走っているかもしれないし」


わくわくした表情で放課後の予定を立て始める水無月くんを前に、ようやく覚醒した私は首を傾げる。


「サブって名前の、リュック背負ったでっかい犬の話してたんだっけ……?」


その問いかけに、今度は水無月くんがこてっと首を傾げた。


「違うよ。“サブさん”って名前の、ハヤブサ運送の大型トラックの話をしていたんだよ」

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