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「これが、昨日会ったマルちゃん似のワンコさんで、お名前を“そう次郎くん”というそうです!」
特に犬好きでもない私にしてみれば、マルチーズならどれも同じに見えるのだが、水無月くんに言ったら面倒くさいことになりそうなので黙っておく。
画面の中のマルチーズは、“そう次郎”なんて男らしい名前の割に、やたらとフリフリしていた。
飼い主の趣味だろうか。両耳についたリボンはまだしも、フリルとレースがたっぷりのまるでドレスのような洋服は、これからどこぞのパーティーにでも出席するような雰囲気を漂わせている。
男の子ならせめてタキシードのようなかっこいい服を着せてあげればいいのに……と思って顔を上げると、困ったように眉根を寄せて待ち構えていた水無月くんと目が合った。
「実はそう次郎くんはね、本当は女の子なんだって。でもそれに気がついたのは名前が定着したあとだったから、もう変えるに変えられなくて、こんな形で女子力をアピールしているそうだよ」
それであんなにフリルまみれなのか……うっかりさんな飼い主を持ったそう次郎くんがかわいそうに思えてくる。
「でも、久しぶりにマルちゃんに会えて嬉しかったな……。本当にね、びっくりするくらい似てるんだよ」
厳密にはマルちゃんではないのだが、水無月くんは大変嬉しそうに頬を緩めて画像を眺めているので、何も言わずにその様子を眺める。
そうして黙って微笑んでいればただの完璧なイケメンなのに、口を開けば残念のオンパレード。他の女子達がこぞって口にするように、そこが本当に残念だ。
「……ほんと、神様って残酷かも」
小さく呟いた声に、水無月くんが顔を上げて不思議そうに首を傾げる。
「瀬戸さん、今何か言った?」
「別に何も」
もし仮に、水無月くんが残念ではない本物のイケメンであったなら、彼がこうして私に懐くことはなかったのだろう。
水無月くんの周りには可愛い女子と、同じようなタイプの男子が集まって、いつだって賑やかな輪が出来ていたに違いない。
そんな輪の中にいる方が、私と一緒にいるよりもよっぽど自然な気がする。
「もしかして、幽霊……?」
「……は?」
“もしも”な想像に浸っていた私の耳に、突然おかしな単語が飛び込んできた。
そのため、問い返した声が思わず険しくなる。
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