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「なんと!駄菓子屋のマルちゃんにそっくりな子に会ったんだ」
「どう?びっくりでしょ」と言って楽しそうに笑う水無月くん。
「……だれ?」
でも私の知り合いに、駄菓子屋のマルちゃんなんて人はいない。
「ええ!?瀬戸さん、マルちゃんのこと知らないの?」
酷くショックを受けたような水無月くんの声は、教室中に響き渡る。
けれど誰一人としてこちらを見もしないし気にも留めないのは、その声を発したのが水無月くんだからだ。
クラスメイトはみんな、彼がどういう人であるかをよく心得ている。
いい意味でも、悪い意味でも。
「そっか、瀬戸さんはマルちゃんを知らないのか……そっか」
しゅん……と肩を落として落ち込んでいる水無月くんが哀れっぽくてしょうがないので、仕方なく記憶の中で“マル”という名の人物を探す。
そういえば私がまだ小学生だった頃、通学路にさほど間隔をあけずに三軒の駄菓子屋が並んでいて、ちょっとした激戦区だった。
それも中学に上がってしばらくすると、軒並み潰れてしまったが。
あの三軒のうちのどれかに“マルちゃん”なる人が……。あれ、でもちょっと待て、確か水無月くんと知り合ったのは――。
「まあしょうがないか。マルちゃんが生きていたのは僕が小学生の時のことだし、瀬戸さんと出会ったのは高校に入ってからだもんね」
「うん。しょうがない、しょうがない」と呟いて、哀れっぽく下がっていた肩を元に戻した水無月くんは、何事もなかったかのようにへらっと笑う。
初めの頃は、その自由さにイライラしたりもしたが、今ではもうすっかり慣れてしまった。
むしろ、今日も水無月くんは自由に生きていらっしゃるようで何よりだとすら思う。
「ちなみに駄菓子屋のマルちゃんっていうのはね、僕が小学生だった時に家の近所にあった駄菓子屋さんで飼われていた犬のことで、マルチーズだからマルちゃんっていうらしいんだけど、性別はオスなんだよ」
「マルちゃんって犬!?」
驚きに思わず大きな声を出してしまったが、これもまたいつものことなので、クラスメイトは誰も気にしていない。
水無月くんもまた、私の驚きなど全く気にしていない様子で、徐ろにブレザーのポケットから取り出したスマートフォンを操作している。
「マルくんだと何かがしっくりこないってことで、マルちゃんにしたらしいんだけど……。あっ、ほらこれ!見て、見て」
目の前に差し出された画面には、可愛らしいマルチーズが一匹。
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