瀬戸さんと水無月くん

まひるの

1 水無月くんという人は

水無月みなづきくん、この間のテストでまた学年一位だったらしいよ」

「スポーツテストでもぶっちぎりの一位だったってね」

「わたしなんて、この前生徒会の資料作り手伝ってもらっちゃった!」

「あんなにかっこよくて、こんなに完璧なのに……」


水無月くんは、いわゆる残念なイケメンだ。


「「「神様ってほんと残酷……」」」


深いため息と共に肩を落とす彼女達が言うように、何でも出来る完璧さと、誰もが羨むパーフェクトな容姿を持っていながら、それを打ち消してしまえるほどの欠点をも兼ね備えているのが、水無月くんという人だ。


瀬戸せとさーん!」


そして私は、なぜかそんな残念なイケメン水無月くんに、とてつもなく懐かれている。


「おはよう瀬戸さん、いい朝だね!」


窓の向こうには、今にも雨が降りだしそうな重たい灰色をした雲が広がっている。気分まで重たくなりそうなほど、それはそれはどんよりとしている。

今朝の天気予報でも、降水確率は確か百%に近かったはずだ。

何をもって“いい朝”と呼んでいるのか、彼の考えていることはさっぱりわからない。


「おはよう水無月くん」


いつものことながら、水無月くんは当たり前のように私の隣の席に腰を下ろす。

その席の本当の主は、教卓に背中を預けて友達と楽しそうに談笑中。

満面の笑顔でこちらを向いた水無月くんは、早速何かを期待するように瞳を輝かせる。

もし仮に彼が犬だったとしたならば、ちぎれそうなほどにしっぽを振っていることだろう。


「ナニカいいことデモありましたカ?」

「わかる?さすが瀬戸さん!」


本人には全く自覚がないのかもしれないが、顔にはっきりと書いてある。いいことがあったので聞いて欲しいと、それはもうはっきりと。

正直なところ全く興味はないが、話を聞くまで無言の訴えが収まることがないのはよく理解しているので聞く体勢に入ると、水無月くんは勢い込んで話し出した。


「あのね、実はね、昨日帰る途中にびっくりする出会いがあったんだよ!」


もったいぶって言われても、ちっとも興味は湧いてこない。


「へー、誰に会ったの?」


それでも適当に相槌を打ってみれば、水無月くんが嬉しそうに続けた。

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