第8話 手慣れた買い物
*
俺たちが大学を休み、向かった場所は──駅前の家電量販店だった。
「……?」
「ほら、蓮くん。行くよ?」
俺は首を傾げる。
てっきり、今日も図書館かどこかで自殺者の情報を集めると思い、御子に付いて行ったのだが、まさかの目的地だった。
こんな場所に、何の用があるんだ? 御子は入口の案内板を確認すると、エスカレーターを使い、上階へと向かった。
「な、なぁ。なんでこんな場所に来たんだ?」
「言ったでしょ。正体を突き止めることができるかもしれないって。今日はここで、そのための道具を買うんだよ。調べ物はこの後でね」
道具──この家電量販店で? ある意味、一番幽霊やその手の存在とは程遠い場所だが、御子は何を求めてここを訪れたのだろうか。何階かエスカレーターを登り、店の四階で御子は止まった。
そのまま通路を通り、御子は物色するような目で棚を眺めている。そこは──防犯カメラが陳列されていた。
「カメラ……?」
「うん、これがいいかな」
カメラを手に取り、性能を見比べた後、店員を呼ぶ。いくつかの質問をした後、店員は小走りでどこかに行った。どうやら、購入を決定したようだ。
「何を……買ったんだ?」
「ん? これ? 一番電源が長持ちするタイプだよ。バッテリーが付いてて、数週間も持つみたい」
御子は商品棚に置かれている、黒色のカメラを指差す。値段は──二万円。な、中々するな。
「これを一応、三個ぐらい買っておいたんだ」
三個──つまり、六万円か。俺の一月分のバイトの給料だ。
「何のために……カメラを?」
店に入った時から浮かんでいた疑問をぶつける。
「カメラってね、人間の目には見えないモノを映し出すんだよ。あ、でもよく心霊番組とかで出てくるオーブとかは偽物だからね。あんなのはテレビの演出。まあ、その件は置いといて、こういう状況だとすごく便利なんだよ、コレ。目が増えるのと同じだし、寝てる時も何が起こったか分かる」
あのオーブってテレビの演出だったのか。って、今はそんなことどうでもいい。説明から察するに、御子はこのカメラを使って――っ。
「まさか、これでアパートの近くに来た呪いの正体ってやつを特定するのか?」
「正解♪」
ニッコリと、満面の笑みを御子はこちらに向けた。
*
「……こんなもんでいいか」
リビングにカメラを設置し終わり、一息つく。
しかし、本当にこんな物が役に立つのだろうか。相手が霊という超常的な存在に対して、このような文明の利器は正直まったく使えないという印象がある。
しかし、御子の言うことだ。きっと、これが最善の策なのだろう。
「蓮くん。外にカメラ設置してきたよ」
リビングに一つ、アパートの外に二つ、これですべてのカメラの配置が完了した。無論、アパートにカメラを設置していることは誰にも報告しておらず、俺たちが無断で行っていることである。もし、他の住民や大石さんに発覚したら──少し面倒なことになるが、背に腹は代えられない。
こっちは命が掛かっているんだ。後でいくらでも謝罪するから、今だけは見逃してくださいと、誰に向けているのか分からない謝罪の言葉を心の中で唱える。
「ここをこうしてっと……」
御子は俺のノートパソコンを使い、カメラと接続する。
なぜ、そこまでスラスラと使い方を知っているのか気になったが、聞かないことにした。
「ほら、できたよ」
「お、おぉ……」
パソコンの画面には三台の監視カメラの映像が映っていた。
部屋の中に設置したカメラにはパソコンを覗く俺たちが映っており、他の二台は植木鉢かどこかに置いたのか、視点がやや下になっていたが、まず発見されない場所に隠されていた。
いや、隠し場所が上手過ぎるような気がするんだが。なんでこんなに手慣れているんだ。
「どう? 蓮くん」
「お、おう……いいと思うぞ」
ともかく、これでアパートに接近するモノを確認することができる。後は獲物が引っ掛かるのを待つだけだ。
「それにしても蓮くん。わざわざ割り勘で払ってくれなくてもいいのに」
「さすがに、あれだけの大金を出させるのは悪いだろ。それに、俺は本当は全額払うつもりだったのに、御子がどうしても半分払うって言ったんじゃないか」
「フフッ。私、蓮くんのそういうところ大好き」
小っ恥ずかしくなり、俺は御子から視線を逸らす。
「じゃあ、お昼を食べたら、図書館で調べ物を再開にしようか」
「……あぁ、そうだな」
徐々にだが、真相に近付いている。そんな予感がする。昼食を済ました俺たちは図書館へと向かい、周辺で起きた自殺や変死についての調査を開始した。
基本的にはしらみ潰しだ。ネットで事件が起きた日付を探し、その関連記事を当時の新聞や雑誌から集める。
正直、最初に検索結果を見た時は驚いた。予想以上に、この日本では自殺は頻繁に発生している。ざっと見る限り、周辺地域でも数十件以上はあった。いくつかの記事は既にアドレスが失効しており、ネットからでは詳細な情報が追えなかったが、それでも一つ一つをまとめるのは途方もない作業だ。
それに、情報を整理しても、恐らくこの大半の事件はあの影とは無関係のものに違いない。そこから更に、事件を厳選すると──最終的に残るのは数件がいいところだろう。二人でも、今日中に終わらせるのは絶対無理だな。
「蓮くん。これ全部調べる必要ないよ」
「えっ?」
御子は俺がノートに羅列した事件とその日付を見て、指摘する。
「ちょっと範囲が広すぎるかな。もっと狭めていいよ。二つ隣の区までで十分だと思う」
「本当に、それでいいのか?」
「うん。もし、すべてが繋がってるなら──本体の行動範囲は広くないはずだからね」
「……分かった」
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