第14話 蟷螂夜想曲
芙蓉と二人だけの室内。本棚には大量の本や書類が並べられている。旗袍に白衣を来た奇異な見た目に反してまるでテレビで見た学者の部屋のようだと思った。落ち着いた電球色の照明は華美な店内と似つかわしくない。
「では、面接を始めようか。」
ボクの前に
心音を聴かれない限り、キョンシーであることはバレないはず。
「ボク…私はメイ…といいます、ここは何をする場所なんですか~?」
なんとなくわかる。良くないことをする場所だってこと位。
今は時間稼ぎをするしかない。
「…本当に、何もわかってないのぉ?」
細い眼を見開いて、芙蓉は驚いてみせる。
「彼らからは何も聞いていないのかい?」
主人と紫苑から聞いているのは、ボクが売り物の役だということだ。
「聞いてません。何も!」
打ち合わせ通り、無知を決め込む。というより事実ボクはよくわかっていない。
真実の中に嘘を混ぜる方が効果的だと、主は言っていた。
「かわいそうに、まぁ私が憐れむのも妙な話だけどねぇ。」
芙蓉は脚を組む、白衣と同じ白色のエナメルのブーツが煌めく。
「面接と言っても、君に拒否権はない。君は商品だから査定と言った方が正しい。」
いつもそうだ、ボクに拒否権はない。こんな格好してるのも
キョンシーとして生まれたことにも、自分で決めることなんて何一つない。
「そんなこと、いつものことだ…ですよ。」
つい口調が戻ってしまう。芙蓉を覗き見るが気にも留めていない。
「そう、
芙蓉は大袈裟に手を拡げ天を仰ぐ。
「――変えるって?」
「支配構造の変革だよ、我々が人の世を支配する。」
「わかりません、何を言っているのか…」
心の底から分からない。人間社会すらよくわかっていないボクには難しすぎる。
ただ自由を求める気持ちだけは理解できた。
「これからそれを教えてあげる。講義の時間だ――」
青蛾の城主。巣と呼ばれる住居で人を飼いならし。
娯楽と恐怖で支配するヤツ。紫苑がわかりやすいサンプルだ。
「――飲み物を取ってくるよ。」
芙蓉が給湯室に向かう。部屋を抜け出す隙はなさそうだが霊鳥で連絡を試みる。
主にねだった霊鳥が此処で役立つとは思わなかった。
『主、主!こちらは今のところ問題ないよ、そっちは?』
――返答がない。お取込み中ってわけ?
何だよ、自分で言っておいて。とりあえず連絡は済ましたからね!
ヒールの、軽快な音はどこか楽し気で鼻歌さえ聞こえてきそうだった。
霊鳥を収納し、元の状態に芳しい香りと共に芙蓉が現れる。
「どうぞ?ゆっくり飲んで―」
紅茶にしては赤すぎるし、錆臭い。駄目だ――これは飲むなと主に言われている。
震える手でカップを手に取る。
「器も私が作ったんだ、沢山骨が余ってねぇ。昨今の世界経済を見るに
此処でで骨が余る理由など想像もしたくない。
命令(りせい)が拒絶し、本能が血(それ)を欲した。
芙蓉に磁器ごと頬り投げると、僅かな動作で避け壁にぶつかった磁器は粉々に粉砕される。血飛沫が芙蓉の顔を濡らし、芙蓉は長い
「…飲むなといわれているんだろ?仙気を抑えていても君が
「ボクはお前と同じなんかじゃない!」
「同じさ、君はまだボクのようにはなれないだろけど…!」
白衣を脱ぎ捨てると芙蓉の身体に仙気が溢れ、札と牙が顕現する。
ここまでは理解出来た――それはボクも同じだ。
歪な陰の気と共に現れる巨大な鎌を携えた四本の腕。
人間体の腕も甲殻に覆われ強度と鋭さを増す。
釈迦のように背中から伸びる腕はどう見ても有難いものじゃない。
これが屍改?ボクと同じ存在とは到底思えない。
「我が
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