第11話 灯篭夜総会
一巡した針は終わりと始まりを同時に告げ、執務室の振り子時計が鳴り響く。
此処は、青蛾大廈、最上層。
深緑に染めた髪、薄紫の
丈の長い白衣の下に身に着けた
身体はしなやかに鍛えられた若い男の肉体だ。
黒いヒールを刺しこむ白い脚は艶めかしい。
姿見鏡の前で脚を組んでみる。
「いい
鏡は好きだ、進化を続ける私は尚も強く!美しい!
…だが少し疲れた、人体では複眼状に並べられたモニターの処理が追いつかない!
脚で床を蹴り。車輪付きの回転椅子でデスクへ向かう。
欠伸をして腕を伸ばす、
警報音。至福の時間に水を差すのはどこの輩だ?
――第一巣で異常事態。危機レベルはC。憂慮すべき事態ではある。
――土御門 紫苑。移民の男か、彼はまだ先だ。まだ
慌ただしく駆ける足音が聞こえ、背後で自動扉が開く。
全く、入ってくるなって言ってるじゃないか。
これだから
「
私を見るなりその場にへたり込む。
「…ん~?どうしたのぉ?
白、最近雇った娼婦の一人。18になったばかりの少女だが、いい
蝉と同じ生理的な反応。目の焦点が合わず、小水を垂れている。
まったく、人間は脆い。脆すぎる――だから
カップと電話をデスクに置き白に向かい直る。
「ただの
やっと正気を取り戻した白は顔を真っ赤にして謝る。
「…ごめんなさい!取り乱してしまってっ!」
たかだか手脚が増えただけでそんなに驚くのか。
「
その気品を乱すのが、たまらないのだという。
優しくタオルで下の世話をしてやる。
全く、自分で拭けって言ってるのに。言葉もわからないのか?
ほんとに私ってば
「それで?何さ。そんなに急務なのかい?」
顔を赤らめ、小刻みに震えたまま白は話し出す。
本当に愛おしい
「…警察、
「えー?それは可笑しいねぇ。」
目を細め作り笑顔を白に向けてやる。
「ですが!おそらく――不正アクセスか道術による念写かと。」
――怒りが沸く。
コンクリートの壁にコーヒーカップを投げつける。
カップの中の赤い液体と粉々になった破片が損傷した頭蓋骨のように周囲に散らばり、鉄臭さがあたりに漂う。また白は膝を突いてその場で震えている。
「――嘘をつくなよ。」
どうして、
「ここに君以外、
思わず顎が外れて素の姿を晒しそうになる。
それは美しくない。
妙に従順だと思ったら内通者。一気に愛想が尽きた。
いいや。もう。
――
三本目の左腕で身体に毒を回し。三本目の右腕の鎌で身体の正中線を綺麗に開いてやる。白い肌、綺麗に避けて現れる肋骨とはらわた。艶めかしく光り、まるで宝石のようだ。
――美味しそう。このまま血を啜り喰ったらどんなに甘美だろう!
でも我慢だ。美しい作品を作る為には欠けがあってはならない。
神は細部に宿る。脈打つ身体に毒を流し、ゆっくりと血を凝固させてゆく。
痙攣が止まり、肉体が硬直する。これで下準備は完了っと!
デスクに置いていた電話が鳴り響く。この手では持ちにくい。
全く、今夜は慌ただしい。満月だからか?手を人間に戻し受話器を取る。
「誰だーい?こんな夜中に電話してくるのは…?…私は高いよ?」
受付時間はとうに過ぎている。
こんな時間に電話してくるのはVIPか、仕事の話だと相場が決まっている。
「…やぁ、紫苑クン。君もついに働くことにしたのぉ~?」
男は男で需要がある。道士を男娼に沈めるのは面白そうだ。
素体としても悪くない。だが、働くのは彼じゃないらしい。
「…売る?女の子。…へぇ~、キミも堕ちたもんだねぇ!」
丁度、白も終わっちゃったし。新しい玩具は欲しかった。
――私の期待に沿うかどうかはまだ分からないけれど。
「…誉めてるんだよぉ?言葉のアヤって奴ぅ。そうだよ…うん。待ってるから!」
楽しみな予定が出来ちゃった。今日は徹夜で白を完成させないとっ!
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