オロボ46の即興小説!

オロボ46

河内三比呂さんの企画『即興三題噺』 お題:暑中見舞い・世界・啓発



 暑中お見合い申しあげます。

 こちらは暑いや寒いといった概念は存在しませんが、下界の方は大変な猛暑と聞きました。みなさまいかがお過ごしでしょうか。

 ようやく熱が引き、まもなく仕事が出来るまで体調が回復しそうです。下界で起きた出来事をよかったら教えてくださいね。


 神より。










 暑苦しい巫女装束を脱ぎ、届いていた手紙を見て私は爆笑した。

 神から、暑中見舞いが届いたのだ。形式上は神に仕える私に取って名誉あることではなかろうか。なんて口に出しては腹を抱える。

 第一私は就職活動という苦行を避けるために実家の稼業を受け継いでこの神社で仕事をしている。つまり、表では神に仕えているように振る舞っているだけで中身は信仰心の欠片もないのだ。


 それにしても、なんとも滑稽なイタズラだ。きっと近くの生意気ボウズどもの仕業に違いない。たしか今年で小学5年になるはずだが、丁寧な暑中見舞いの書き方には関心させられるものだ。


 さて……せっかくだからこの暑中見舞いは記念に取っておくとして、私も返事を書かなくては礼儀に反する。あの小さな神様たちの戯れに付き合ってあげようじゃないか。

 とはいえ、ただ単に彼らのままごとに乗っかるだけでは癪に障る。味を占めて同じことを繰り返されても困るだけだし。かといって直接説教をするのも白けてしまうからな……彼らのノリに乗っかりつつ、ぎゃふんと言わせるようないい内容がいいのだが……


 しばらく考えて、私は啓発の声を暑中見舞いに書くことにした。

 世界各地で起きている問題……たとえば戦争とか、疫病とか、格差社会とか……あとはやはり、この猛暑だ。おまえ達が熱を出して寝込んでいる間に日本では40度を超えてもあまり驚かなくなったぞと筆を走らせる。

 きっと小さな神様たちは意味が分からず自分で調べたり、親に聞いてみたりするだろう。私は彼らの困った顔を思い浮かべて満足し、彼らは社会問題を知って将来に役立つ知識を得る……互いにWin-Winな暑中見舞いになりそうだ!


 そんなことで私はこの返事を書いたハガキをポストに投函し、布団にくるまったのであった。











 それから半月後、世界中の戦争は消滅した。

 戦争を行っていた国の指揮者、軍隊、そして住民までもが謎の失踪を遂げたのだ。


 半年後、国が法律の改定を行うことが一種のブームのようになっていた。

 その結果、地域差や人種、職種による格差はぐんぐんと縮まっていった。


 そして再び夏が来る。

 今年の夏は非常に過ごしやすい気温が続き……穏やかな夏となった。




 さらに不思議な話としては、あのあと近所のイタズラぼうずどもに話を聞いたところ……手紙を出していないことがわかった。

 姉ちゃんに手紙を送るぐらいなら直接会ってイタズラした方が反応見れて面白いだろ、というなんとも説得力のある理由だった。

 もちろん、私が出したハガキは彼らの家に届かなかったという。




 今朝、神から再び暑中見舞いが送られてきた。

 自分が熱を出している間に皆を困らせてすまない、と……そして、まさか猿から返事が来るとは思ってなかったという大変失礼な内容だった。

 どうやら神いわく、物言わぬペットに対して仕草から勝手に感情を想像するような感覚で、恐竜の時代から暑中見舞いを送るという遊びを行っていたそうだ。




 私はなんとも身勝手な神に対して返信を書き、贈り物である日本酒とともに郵送した。




 これからもよろしくお願いします。

 お体の方、大事になさってくださいね。

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