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事情聴取は形式的なものだった。
どちらかというとこちらを王城に連れてくる口実なのだろう。
さて、私たちをこの国はどう扱うのかしら、それが問題ね。
詩織は考えにふけりながら、カップの紅茶を飲む。
今は城の応接室で待機している。
横には亜美が座っていて、いまだ心細そうだったので、彼女の手を握ったままである。
あちらのソファにいる圭太は給仕のメイドに鼻を伸ばしている。
頭が痛い、時と場所は考えて欲しい。
里奈は近くに幼馴染みがいるからか、意外と平気そうだ。
そうして時間を過ごしていると、
「異世界人の方々、ようこそ王国へ。僕は由緒正しき王国貴族のボボンと言う。以後、よろしくお願いするよ、ええ」
ボボンという若い男は忠告と言いながら、ぺらぺらとしゃべる。
ああ、これはダメね。能力のあるなしではなく、信頼できる味方になり得るかという点で。
他者を見くだす言葉や仕草の数々。
貴族の悪い手本のような選民思想。
それに、隠しているが、詩織に向けるボボンの目は女を見定める目だ。
よからぬことを考えているに違いない。
隣の亜美もそういうのに敏感なのだろう、さっきから握っている手がきゅっと固くなっている。
ただ、収穫もあった。
亜美から聞いたソルトという人物と図らずも面識を持てるらしい。
国王から命じられて私たちの監視任務についた?
国王に信任されるってことは有能とみてよさそうね。
監視というのが少し不安が残るけど。
あとは直接会って人となりを確かめましょう。
そして、そのチャンスは早かった。ボボンが言いたいことだけ言って出て行ったのと入れ替わるように、ソルトはやってきた。
長身で顔立ちが爽やか。
軍服も着慣れている。
見た目で詩織が騙されることはないが、見た目の印象は大事である。
詩織が期待して話しかけようとした時だった。
冷や水を浴びせかけられた。
圭太が普段見せない積極性でソルトに突っかかっていく。
「とぼけたってムダだぞ。ちゃんと知ってるんだよ。あんたが女癖が悪いって話もな!」
まさか、ボボンのあの話を真に受けたっていうの……。
そして、圭太はソルトと話し合うことすらせず、なんのかんの言って応接室の外へ追い返してしまった。
扉の前で得意げに胸をそらす圭太。
詩織はその背中を冷徹に見つめていた。
噂に踊らされる、話を聞こうとしない、私たちの意見も聞かない。
信頼できそうにないわね。
詩織は圭太の評価を下げると立ち上がる。
「私は行くけど、市村さん、あなたはどうする?」
「えっと、私も。お礼、言いたいので」
「なら、行きましょう」
詩織と亜美が圭太の横を通り過ぎようとする。
圭太が話しかけてくる。
「詩織先輩、どこに行くんです?」
「お手洗いよ」
「あのソルトってヤツがまだ近くにいるかもしれないんで、何かあったら大声で呼んでくださいよ、すぐに行くんで」
「ええ、ありがとう」
「いやーぁ。当然っすよ。……あ、詩織先輩と亜美、まだ手をつないでる。二人で仲良くツレション、やっぱりこれはキマシタワー」
何かぶつぶつ言っている圭太に背を向ける。
詩織と亜美は応接室を後にした。
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