キングアシスタント
伊田 晴翔
キングアシスタント
最終試験として出された課題。それは超高級ホテルに宿泊するアルフレッド19世のスピーチの際、適切なタイミングで頭に王冠を載せること、だった。
他の国と同じように、この国でも王の存在は絶対的なものだ。そしてこの国の一般市民が最も多く金を稼ぐ方法は、王に仕えること。『キングアシスタント』になることだ。
僕の家は貧しい。
父さんは僕が幼いときに亡くなり、それ以来働きづめだった母さんは、数年前に体を壊した。母さんに楽をさせるため、僕はキングアシスタントになると決めた。
そして、ここまで準備してきた。
キングアシスタントの試験は20歳以上でないと受けられないため、僕は20歳の誕生日を今か今かと待って、やっと試験条件をクリアした。
しかし、キングアシスタントになれる者はそう多くない。
キングアシスタントの試験に受からないということは、「死」を意味しているからだ。
1次試験では、現在のこの国の王族、145名の名前を覚える、という課題が出された。1人でも王族の名前を間違えた瞬間には、その受験者は首をはねられる。
2次試験は、国王の遠縁の王族に受験者1人ずつがつき、食事の提供をする課題だ。
適切なタイミングで提供しなければ、受験者はその場で首をはねられる。
そんな試験をいくつも突破し、今日、僕は最終試験を迎えた。
出発の朝、母さんが言った。
「立派に務めを果たしなさい。自信を持ってやり遂げなさい。私はあなたを心優しい子に産んだことを誇りに思うわ」
それを僕は『死ぬときはせめて、胸を張って』という母さんからの最大の激励だと解釈した。
「僕も母さんの子どもに産まれて幸せです。行ってきます」
僕は試験会場の超高級ホテルへ向かった。
途中、1人の子どもが迷子になっていた。試験に遅れることもいとわず、僕はその子どもを保護者らしき男性に届けた。母の誇りになるためだ。
また、こういう行いは巡り巡って、僕を助けるかもしれない。
なんとか間に合った。
会場には僕を含め5人の受験者がいた。彼らもまた、この過酷な試験を突破してきた者たちだ。
今日は、超高級ホテルのエントランスから、アルフレッド19世のスピーチが聴けるとあって、ホテルにはたくさんの聴衆が集まっていた。
スピーチが始まるとき、国王が聴衆に姿を表すタイミングで、適切に王冠を載せなくてはならない。少しでもタイミングを間違えば、即刻処刑だ。
アルフレッド19世が出てきた。
「ここだ」と僕は、他の4人をかき分けて王冠を手に取り、駆け出した。
僕はふわりと、彼の頭に王冠を載せる。
「ありがとう。あれ、僕は君のこと知っているよ」
アルフレッド19世は僕を気に入ってくれたようで、僕は見事にアルフレッド19世のキングアシスタントとして採用された。
ちなみに、アルフレッド19世にまだキングアシスタントがついていなかったのは、彼がまだ5歳の子どもだったからだ。
キングアシスタント 伊田 晴翔 @idaharuto
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