第11話 時間軸の操作

高橋恭平は、視点の入れ替え技術を学んだ後、次に時間軸の操作技術を学ぶために再び三田村香織のもとを訪れた。香織は、時間を前後させることで物語に深みを持たせ、事件の背景や動機を明らかにする方法を教えることにした。


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「時間軸の操作は、物語をより複雑で興味深いものにするための手法です」と香織は話し始めた。「過去と現在の出来事を交互に描写することで、読者にキャラクターの背景や動機を徐々に明かすことができます。」


高橋はノートを取り出し、香織の言葉を書き留めながら耳を傾けた。


「まずは、物語の大まかな時間軸を設定しましょう」と香織は続けた。「例えば、事件が現在進行中の出来事であるとします。その中で、過去に起こった出来事が徐々に明らかになり、事件の背景やキャラクターの動機が浮かび上がってくる構成です。」


香織は、白板にタイムラインを描き始めた。左側には「過去」、右側には「現在」と書かれ、途中にいくつかの重要な出来事が記されていた。


「例えば、過去における重要な出来事として、被害者と犯人が出会った瞬間、犯人が動機を抱いた瞬間などを描写します。そして、現在の出来事と交互に描写することで、読者に少しずつ真実を明かしていくのです。」


高橋はそのタイムラインを見つめながら、「過去の出来事が現在の事件にどのように影響を与えているかを描くんですね」と理解を深めた。


「その通りです。そして、時間軸を操作する際には、読者が混乱しないように、明確な時間のマーカーを設けることが重要です。例えば、『5年前』や『現在』といった表示を使って、時間の変化を示します。」


香織は、さらに具体的な例を示すために、自身の作品の一節を読み上げた。


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**現在のシーン**


涼介は、被害者のオフィスで手がかりを探していた。デスクの上には古びた写真が置かれており、その写真には被害者と見知らぬ人物が写っていた。彼はその写真を手に取り、写真の裏に書かれた日付を確認した。


**過去のシーン(5年前)**


5年前、被害者はその人物と出会った。その人物は、被害者のビジネスパートナーであり、彼らは新しいプロジェクトに取り組んでいた。しかし、ある日、そのプロジェクトは不正行為によって頓挫し、二人の関係も悪化していった。


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高橋は、その具体的な描写を読みながら、「時間軸を操作することで、事件の背景やキャラクターの動機を明らかにすることができるんですね」と納得した。


「そうです。そして、時間軸を操作することで、読者に新たな情報を提供し、物語に緊張感と驚きを持たせることができます」と香織は続けた。


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香織は次に、高橋に時間軸の操作を実際に試してみるように促した。高橋は、自らのノートを広げ、香織の指導のもとで短編小説の一部を書き始めた。


「まず、現在のシーンを描いてみましょう」と香織は提案した。高橋はペンを取り、次のように書き始めた。


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**現在のシーン**


探偵の涼介は、事件現場である古びた屋敷に足を踏み入れた。部屋の中央には被害者の遺体が横たわっており、周囲には争った形跡があった。彼は部屋の隅に置かれた日記帳を見つけ、それを手に取った。


**過去のシーン(10年前)**


10年前、この屋敷で幸せな家族が暮らしていた。被害者はまだ若く、未来への希望に満ちていた。しかし、その家族はある日、突然の事故に見舞われた。事故をきっかけに、家族の関係は次第に崩壊し始めた。


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高橋は、香織の指導のもとで時間軸の操作技術を実際に試し、物語に深みを与える方法を学んでいった。彼は、この技術が読者に多面的な視点を提供し、物語の魅力を一層引き立てることを理解した。


香織は最後にこう言った。「時間軸の操作は、物語に深みと緊張感を与える強力な手法です。これを効果的に使いこなすことで、読者を引き込み、物語の世界に没入させることができます。」


高橋はその教えを胸に、自らの作品に時間軸の操作技術を取り入れることを決意し、次の章で学ぶための準備を整えた。

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