第10話 視点の入れ替え

高橋恭平は、三田村香織の書斎で視点の入れ替え技術の基礎を学び始めた。香織は、彼に自らの過去の作品を例に出しながら、視点の切り替えがどのように物語の深みを増すかを説明した。


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「視点の入れ替えは、物語に多層的な視点を提供し、読者にキャラクターの異なる側面を見せるための重要な技術です」と香織は話し始めた。「まず、犯人、探偵、被害者それぞれの視点をどのように使い分けるかを考えましょう。」


香織は自らの書棚から一冊の本を取り出し、高橋に手渡した。その本は、香織の初期の作品『影の告発者』だった。彼女はページを開き、特定の章を指し示した。


「この作品では、犯人、探偵、被害者の視点を交互に切り替えています。まず、犯人の視点から物語を始め、彼の計画と動機を描写します。その後、探偵の視点に切り替え、彼がどのように事件の手がかりを追っていくかを描きます。最後に、被害者の視点で事件の影響や背景を描くことで、読者に全体像を見せることができるのです。」


高橋はそのページを読みながら、視点の切り替えがどのように物語に深みを与えているかを実感した。「なるほど、それぞれの視点が事件に対する異なる見方を提供するんですね。」


香織は頷き、「そうです。そして、視点を切り替えるタイミングも重要です。読者が混乱しないように、章の区切りや特定のシーンの終わりを利用して視点を変えることが効果的です。」


香織はさらに具体的な例を示した。「例えば、犯人の視点では犯行の計画と実行を詳細に描写します。次に、探偵の視点では、その手がかりをどのように追い詰めるかを描写します。そして、被害者の視点では、事件の背景や動機を深掘りすることができます。」


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香織は次に、高橋に視点の入れ替えを実際に試してみるように促した。高橋は、自らのノートを広げ、香織の指導のもとで短編小説の一部を書き始めた。


「まず、犯人の視点でシーンを始めてみましょう」と香織は提案した。高橋はペンを取り、次のように書き始めた。


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**犯人の視点**


夜の闇が深まる中、彼は冷静な目で計画を確認していた。すべてが完璧に進行するはずだった。彼の手には、小さな瓶が握られており、その中には致死量の毒物が入っていた。これで全てが終わる、と彼は心の中で呟いた。


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「次に、このシーンを探偵の視点に切り替えてみましょう」と香織は続けた。高橋は新たな視点でシーンを書き直した。


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**探偵の視点**


涼介は、被害者の部屋に入り、周囲を観察した。微かな匂いに気づき、彼は慎重に部屋を調べ始めた。デスクの上には、開封された小さな瓶が置かれていた。彼はその瓶を手に取り、中身を確認する。


「これは毒物だ」と彼は確信した。


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「最後に、被害者の視点でこのシーンを書いてみましょう」と香織は提案した。高橋は、被害者の視点で同じシーンを書き直した。


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**被害者の視点**


彼は、自分のオフィスで仕事に没頭していた。突然、体に異変を感じ、胸が苦しくなった。手元にあったサプリメントを思い出し、それを飲んだことが原因ではないかと疑ったが、時すでに遅かった。視界がぼやけ、意識が遠のいていく中で、彼は最後の力を振り絞って助けを求めようとした。


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高橋は、香織の指導のもとで視点の入れ替え技術を実際に試し、物語に深みを与える方法を学んでいった。彼は、この技術が読者に多面的な視点を提供し、物語の魅力を一層引き立てることを理解した。


香織は最後にこう言った。「視点の入れ替えは、物語に深みを与える強力な手法です。これを効果的に使いこなすことで、読者を引き込み、物語の世界に没入させることができます。」


高橋はその教えを胸に、自らの作品に視点の入れ替え技術を取り入れることを決意し、次の章で学ぶための準備を整えた。

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