第3章 「告白」(第一部終わり)①

 結衣ちゃんとは、あのゴールデンウィークの日にラインだけは交換してあった。


 六月始めの土曜日、ラインしてみた。

「久しぶりに会えないかな。明日、また三時に公園で。見せたいものがあるんだ」と。


 結衣ちゃんからラインが返ってくる。


「先輩。わたし、嫌われたかな、て。会えますけれど」

 臆病そうなうさぎさんのスタンプも同時に送られてきた。


 廉はくまさんが「お休み」を言うスタンプを送ってあげた。


 その日、廉ははじめは素顔のままで、公園に行くことにした。

 公園に着くと、結衣ちゃんはもう来ている。スズメに豆のお菓子の餌をあげていた。

 結衣ちゃんの髪はだいぶ伸びていた。肩にギリギリ届くくらいまである。


「見せたいものっていうのはこれ」

 廉はスミレ色の伊達メガネを、結衣ちゃんの前に、メガネケースに入った状態でまず見せる。

「かけてみるけど、絶対に笑わないでほしい。絶対に!」

 

 結衣ちゃんは、廉の言葉の何かがツボにハマってしまったのだろう。すでに笑いをこらえている。


 仕方がないので、できる限りさりげなく、そのスミレ色のメガネをかけた。


「あ、すご」

 結衣ちゃんが笑うのをやめて、そう口にした。廉の目を見てる。

 メガネ越しだけれど、初めて、この子と本当の意味で、目が合ったような気がする。 


 廉は頭を下げて言う。

「俺と、お付き合いしてほしいんだ。桜澤結衣ちゃん。いや、結衣って呼んでいいかな。なんか、妹みたいに思ってて。ずっと大事にするから。一緒に、いろんなところに出かけたいから」


「と言うと、わたしを『好き』って気持ちなんですか? それ」

 廉が顔を上げると、結衣ちゃんは真っ直ぐに廉の目を見て問いかける。


「好き、とか恋、とかはこわい感情ですよ。わたしは不安で眠れなかったりしますもん」


 結衣ちゃんは小さな声で言う。


「寝れない時はさ、夜中の二時だって三時だって、俺にラインしてくれていいよ」


 廉は結衣ちゃんに近づくと、頭をポンポンとした。今は、そんなことが自然にできる。不思議なことに。


「忍田先輩。やめてください。あーもう。スミレ色、っていうのは先輩にすっごくよく似合うんです。反則級に似合うんです! 何でも言うこと聞きますよ!」


 結衣ちゃん、いや、結衣はちょっと怒ったように言う。

 軽くぶとうとしてるのか、こちらに出されたこぶし。その手を廉はそのまま受け止めて、お互いの手と手をつないだ。


 少しだけ、公園のあたりを散歩する。

 それだけの時間だったけれど。

 女の子とつながれた手の温かさは忘れがたかった。



 

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