第3章 日常に帰ったら②

 放課後、いつものバスではないバスを使い、この間行った街に電車を使って行った。

 そんなに遠くはない街だが、制服姿の自分たちがこの街にいることがちょっと珍しい。

 丸岡ビルの場所が若干わからなかった廉に対して、「そんなことも知らねえのかよ」と奏は笑い、そのビルまで廉を連れて行ってくれた。


 あの時と同じ階、六階にエスカレーターで行く。

 和風カフェは午後のスイーツを求めるお客さんで混雑している。


「こいつはダメだな。三十分は待つ!」

 奏はそこは諦めたようだけれど、隣にヨーロピアンな絵本カフェを見つける。


「入ってみるか? 男二人で」

 奏が提案したので、廉も乗っかった。

 そこは内装がいちごショートケーキを思わせる場所で、三十分で千五百円とまあまあ高い。

 その代わり、カフェ内にある絵本は読み放題のようだ。


「おー。これ小さい頃に読んだ。ボロボロのピアノが主人公で、ピアノが船とか乗って旅する話だよ」

 奏が教えてくれた本を、廉は読んでみた。外国の本らしい。ドイツ語なのかイタリア語なのかわからない文字が書かれている。でも、絵だけでもストーリーがわかる。


 カフェで頼んだアイスティーを飲みながら、三十分、奏と何もしゃべらずに絵本を読み漁った。



 カフェを出た後は、メガネ売り場に行く。

「こいつの伊達メガネの下見に来たんです。色が、なんて言ったかな」


 奏が若干意地悪をして、廉にその言葉を言わせた。

「スミレ色です。その色がいい」


 廉はキッパリと、メガネ売り場の案内のお姉さんに伝えた。お姉さんは職業柄、慣れているのだろう。


「度の入ってないメガネでしたら、本日、お渡しできますが」

 と言いながら、メガネのフレームのサンプルを複数、持ってきてくれた。

 

 その中の一つにピンときて、廉はそれを手に取る。とても軽い素材だ。

 試着してみると、顔にもフィットする。


 奏が「どれどれ」と見た途端、ぷっと吹き出した。

 店のお姉さんまで若干笑いをこらえてる。


「何か変だった?」

 心配になって、廉はお店の鏡を覗き込む。


「いや、イケメンじゃん!」


 自分で言うのも難だが。

 誰かと思ってしまった。


 スミレ色というのは、若干青みがかった紫色らしい。そして、少し色全体が薄ぼんやりしている。

 その色が、自分にこんなにハマるとは。


 廉はメガネを早々と外してしまう。

「とてもよくお似合いになってましたよ」

 店のお姉さんが、まだ笑いをこらえてるのか、若干、苦しそうにヒクヒクとしたしゃべり方で言った。


「本日、買っていかれますか?」

「いや。俺たち高校生なんで、お金がなくて、下見に来ただけで」

 奏が説明していたけれど。


「買う!」

 廉は奏の言葉をさえぎると、「学業御守り」の中に折りたたんで入れてあった「一万円札」を慎重に、破らないように取り出した。


「じゃあ、生徒会長はイメチェン?」

 奏がおかしそうに、廉に言う。


「いや。これはあの子のためのメガネだよ」

 廉は会計を済ませて、ラッピングされる伊達メガネを優しい目で見つめる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る