第3章 日常に帰ったら①

 ゴールデンウィークが終わり、廉の「ダサいメガネ」をかけた日常もかえってきた。


 それでも、結衣ちゃんの家で見た「あの絵」。


 それは時折、廉の意識に上ってきて、廉を苦しめた。

 

「恋、なのか」

 いつものごとく、陰キャラ全開で生徒会室で、奏とお弁当を食べている時、言葉にしていた。


「恋? なにが? お前がその、桜澤結衣ちゃんに恋してる、てことか」

 奏はその話題にはもう飽きているらしい。興味なさそうに、購買のカレーパンをむさぼっている。


「いや。あの子の家で見た絵のこと。奏に話してなかったかな。俺、ゴールデンウィークにちょっとだけ、あの子と出かけたんだ。それで、その次の日に『俺を描いた』らしい絵を見せられたんだけどさ」


 廉はいつも通り、淡々とそんなことを言った。奏はカレーパンが喉につかえてしまったのか、ゲホゲホと咳き込んでる。


「奏。ごめん。俺、本当に言ってなかったっけ」

「初めて聞いたぞ。何もかも」


 奏は若干、腹を立てている。廉が順繰りに、バレリーナの衣装を見に行った話、和風カフェの話、それから『メガネをかけるならスミレ色に』と結衣ちゃんのおばあちゃんに言われた話、などをしたところで、昼休み終了五分前のチャイムが鳴った。


「続きはいいぞ。大体わかった。廉、放課後、その和風カフェ行こうぜ。そんで、お洒落な伊達メガネを下見する!」


 奏は軽やかに言い捨てて、階段を早足で降りていく。

 廉は決して階段も廊下も急がない。ゆっくりした足取りで歩くのは、生徒会長の基本だ。


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