第3章 初めての女子宅訪問!②

 結衣ちゃんは鼻歌を歌いながら、緑豊かな小道を進んでいく。母さんが歌ってたのと同じ鼻歌だ。最近、日本に上陸した韓流アーティストの新曲かもしれない。

 五分ほど歩いて、小さな清水が道の脇に流れる場所に出た。

「うち、あれです」


 結衣ちゃんが指さしたのは、清水に沿って歩くとある、やや高台に建つ家だ。地元の名士の家と一目でわかる厳かな日本家屋。

 手土産持参していて良かった。いや、お嬢様だよ、この子。


 自分の家だから当たり前なのだが、結衣ちゃんはリラックスした様子で立派な門をくぐり、家のドアを開けて、廉を中にいれてくれた。


「お邪魔します」

 廉は頭を下げて玄関に入る。


 玄関のすぐ脇に百合の花が活けてある。

 その家に似合わないような、バタバタバタバタ、という足音が聞こえた。


「お前かい! うちの結衣ちゃんにちょっかい出したのは!」

 フライパンを持って、あの虎柄のエプロンをしたおばあちゃんが現れた。まさか、このフライパンで廉を殴るつもりなのだろうか。


「急にお邪魔して申し訳ありません。その、ほんの手土産です」


「あらあら、『さがみ』のお菓子。気を遣わなくていいのに。結衣から聞いたけれど、生徒会長さんなんですってねー。結衣に勉強でも教えてあげてください。ゆっくりしていって」


 上品なご婦人(おそらく、結衣ちゃんのお母さん)が傍から現れて、廉の持参した紙袋を受け取った。廉を奥に案内してくれる。


「麦茶しかないんですけれど、お飲みになる?」

「あ、いえ。アトリエを拝見するだけです。すぐに帰りますので」

 

 おばあちゃんより、むしろこのご婦人を怒らせると怖いような気がした。


「百恵(ももえ)さん。そいつに麦茶なんかもったいない。どうせ、今時の子はペットボトルとかカバンにいれてるんだろ。なあ。生徒会長のダサメガネ!」


 急にダサメガネ、と言われて、廉はびくりとする。


 結衣ちゃんのおばあちゃんは、

「まあ、フライパンで殴るのは許すことにした。でも、あんたのメガネは、これからはスミレ色にしな! そっちの方がぐんと似合うよ」


 そう言って、にやりと笑っている。

 怖い。


「アトリエはわたしの部屋だよ。結衣ちゃんは借りてるだけ。なんか一生懸命に作ってた絵があるよ。見てくんだろ」

 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る