第3章 初めての女子宅訪問!①

 ゴールデンウィーク最終日の廉は、まず、めぼしい服として、薄い水色の半袖シャツを選び、丹念にアイロンをかけてシワを伸ばす。

 それに黒いパンツを合わせれば、服は「よし」。

 しかし、よく考えると、「我が家のアトリエ」っていうことはお宅訪問なわけで。


「母さん、よそのうちに行くのに、なにか手土産って、どこで買ってる?」


 鼻歌を歌いながら掃除をしている母さんに、さりげなく聞く。


「あら。奏くんのうち?」


 母さんは掃除の手を休めずに聞き返してくる。


「いや。女の子。この近所に桜澤さんっているよね?」

「あらまあー。あそこのお嬢さん!」


 母さんが何やら嬉しそうだ。


「桜澤さんのおうちは、この辺だと珍しい日本家屋なのよね。和菓子とかいいんじゃないかしら?」


 母さんはもう掃除はどうでも良くなったらしい。廉を車に乗せて、家から車でおよそ十分の和菓子屋「さがみ」に行った。魚の形のふわふわした生地にあんこの入った「おさかなやき」をセレクトして、お金も出してくれた。


「桜澤さんのおうちは、町内会でも発言力が強いから、くれぐれも失礼のないようにしなさいねー」


 母さんにそんな言葉をかけられ、見送られたのが午後三時。昨日の公園に着いた。


 来てくれるかな。

 持ってきたスマホをちらりと見た。三時二分。少し待つとするか。


 ブランコに座ろうとしたが、昼前に小雨が降ったので少し湿っていた。木のベンチに腰掛けて待つ。


 やがて、小刻みに走る音が聞こえてきて、

「先輩。遅れました、申し訳ありません」


 ハアハアと息を弾ませながら、結衣ちゃんが現れた。


「いや、そんな急がなくてもいいから」


 廉は、「もし自分にこんな妹がいたら」と思わずにはいられない。


 昨日とはまた違って活動的な服だ。黒のTシャツにオレンジ色のキュロットパンツ。髪の毛も前髪が落ちないようにしているのか、ヘアピンであちこち留めている。


「『休日画家のわたし』スタイルです! 絵の具もついてますよ。ほら」


 廉が見ているのに気がついたのか、結衣ちゃんはてへへと笑って、オレンジのキュロットスカートの端を指さす。確かにうっすらと紫色の絵の具がついている。


「先輩、そのメガネ、伊達なんですか」


 結衣ちゃんに聞かれて、廉は「装備品」の自分の濃緑色のフレームのメガネに今更気づく。


「なんか、これないと落ち着いて外出できなくてさ。昨日はたまたま、つけてなかった」


 ただ、いつものメガネをしているだけなのだが。廉は気づいてしまう。結衣ちゃんの反応は、絶対に、「メガネをかけていなかった昨日」の方が好感触だったのだ。




 

 


 


 






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