第2章 可愛い和風カフェ②

「えー。先輩とライン交換とか、したかったです」

 てへへ、と恥ずかしそうに笑って、結衣ちゃんはそんなことを言った。


 アイスが溶けないうちに、わらび餅パフェをいただこう。

 わらび餅とバニラアイス、上にかかっている黒蜜とのハーモニー。


「女子って、これがフツーなのか?」


 思わず、結衣ちゃんに聞いてしまう。

 結衣ちゃんはふわりと微笑んだ。


「女子ならフツーのことです。こういうのが日常なんです。男性でももちろん食べますよ。ほら、向こうの席におじさんだって。一人で座ってる方見えますよね」


 結衣ちゃんが指差した先には、確かに、こんな和風カフェよりはラーメン屋さんが似合いそうな中年のおじさんがいて、美味しそうにパフェをぱくりと大口開けて食べている。


「そっか。これ、フツーなんだ」

 廉は少しだけ落ち込む。

 日常の中にこんな煌めきが無数にある。

 女子に生まれたかったとは、これまで、あまり考えたことはなかった。


 けれど、今日はちょっと思う。女子、羨ましい。すげー。


「結衣ちゃん。あのさ」

 デートに誘うみたいで気がひけるのだが。

「明日も、俺、今日くらいの時間に公園来るよ。ブランコに座ってると思う。良かったらさ。来て欲しいんだ」


 真っ直ぐに結衣ちゃんに伝えた。

 結衣ちゃんはちょっと驚いたように廉を見ていたけれど、何かがおかしかったようで、ぷふふ、と吹き出す。


「はい。それなら明日はスマホ、持ってきてくださいね。ライン交換しましょ。それに、我が家のアトリエにご案内しますから。美術大学の講師をしてた、わたしのおばあちゃんの部屋なんですけれどね」


 嬉しいことを言ってくれるじゃないか。この子。


⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 廉は足取り軽く帰宅した。


「レンくんー。ホットケーキミックスにオレンジジュースって、かなり斬新なアイデアだったわねー」


 母さんが、帰宅した廉に、苦笑したように声をかけてくるまで、そのことはすっかり忘れていた。


「え、わたしは『あり』だったと思う。なんか、普段と違っておいしかったよ、すごく」

 もう自分のアパートに帰るらしい紗夜が、その言葉を置き土産に出ていった。


 ホットケーキの実験は若干の失敗か。

 それとも成功か。

 結局、よくわからなかった。


 とりあえず! それより、問題はだな。

 明日、何を着ていくか、なんだよな。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る