第2章 可愛い和風カフェ①

「先輩。話し込んじゃいまして、申し訳ないですー」

 結衣ちゃんが隣にやってきた。そして、アラビア風の衣装の前から動かない廉に気づいたみたいだ。


「どうしました?」

「すごく綺麗だよ、これ」


 なんと言えばいいのだろう。これまで生きてきて、こんな感動、なかった。

 結衣ちゃんは、ひとつの衣装の前から動かない廉の傍にずっといてくれた。

 恥ずかしいような気持ちもしたが、廉は「動きたくなかった」。


 展示場には、その他にも「くるみ割り人形」のクララという主役の少女が踊る小さめのピンク色の衣装もあった。その前でも廉はずっとたたずんでいた。


「先輩、お腹すきませんか?」


 結衣ちゃんが優しく声をかけてくれる。

「この階に和風カフェがあるんです。良かったら一緒に」


「行く!」

 そう答えた自分は、きっと鼻息荒くしてるのだろうな、と、廉は自分でも恥ずかしかった。


 結衣ちゃんに案内されていったその和風カフェは、大正モダンをイメージしているのだろう。石畳を思わせる床に、木のテーブルと椅子が置かれている。椅子の上には手作りのような和の布のクッションがある。


 結衣ちゃんが「わらび餅の乗ったパフェと抹茶ドリンクをお願いします」とメニューも見ずに言うので、廉も同じものを注文してしまった。


 こういう場所は初めてなんだ。

 慣れている結衣ちゃんが心底うらやましい。


 運ばれてきたパフェとドリンクに、廉は息を呑む。

 わらび餅が本当に、パフェに乗ってる!

 結衣ちゃんが慣れた様子で、スマホで写真を撮ってる。

「あ、スマホ、家だ」

 廉はカバンの中を探って、落胆する。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る