4 3番目

 はい。

 入学式です。


 なんだかゴッタゴタな状況の中、私、今日から中学生。


 はぁ……でも一体、何なのかなぁ?

 私、落ち着いて中学生にもならせてもらえなかったよ。


 入学式の内容も、あんまり覚えていない。

 新しい教室にも、気がついたら到着してた。


 私、何組なの?

 4組?

 あ、そうですか……。


 先生が来るまでの間、新しい教室内は大騒ぎ。

 同じ小学校の人が、何人かいる。


 だけど入学と同時に、これまでの関係性は、すべてリセット。

 また最初からやり直し。


 人見知りの私は、初めて会う人とうまく話すことができない。

 ここが、私と、ママ&おばあちゃんの違い。

 あの二人は、初対面でも、誰とでも仲良く話せるからなぁ……。

 コミュ力が神なんだよね。


 だからきっと、あの人たちはモテるんだろう。

 たぶんママとおばあちゃんがこのクラスにいたら、明日からクラスの一軍。

 三日以内に誰かにコクられるに違いない。


 そんなことを考えながら、私はヒマすぎて、メモ帳を取り出した。

 そこに、コーポ・ディッシュの絵を描きはじめる。

 孤独だし、やることないし、先生が来るまでの間、絵くらい描いてもいいでしょ?


 ずっと気になっていた――あの、屋根の上のヘンなやつを描く。

 パラボラアンテナみたいな、大きな白いお皿。


 あれ、結局、何なの?


 ダサい。

 超ダサい。


 あれ、外してもいいんじゃないかな?

 考えてみたら、あれ、私が小さい頃から、あの屋根の上にある。


 昨日、管理人室のテレビをつけても衛星放送なんか映らなかった。

 だからきっと何の役にも立ってない。

 近所にもヘンに思われるだろうし、管理人権限で取り外しても可じゃない?


「パラボラアンテナ、好きなの?」


 いきなり、私は誰かにそう声をかけられる。

 ペンを止め、私はそちらに顔を向けた。


 隣の席の男子が、私の絵をながめてる。

 はい。

 まったく知らない人です。

 たぶん、隣の小学校から来た人。


「えっと……」


「それ、今描いてるイラスト。パラボラアンテナだよね? きみ、好きなの?」


「いや、その……」


「ぼくも好きなんだ。なんだか宇宙を感じる。って言うか、きみ、絵がうまいんだね」


「は、はぁ、どうも……」


 その人は、なんだか納得したようにうなづき、私から視線を外した。

 クラスメイトたちの大騒ぎを、ボーッとながめはじめる。


 あのぉ……すいません。

 いきなり話しかけてきといて、そのままよそを向くとか、何なんですか?

 私、どうしたらいいんですか?


 そんなことを考えてるうちに、担任の先生が教室に入ってくる。

 どうやら私のクラスの担任は、男性のようだ。


 教室内が、一瞬にして静まる。

 先生は自己紹介をはじめたが、私はボンヤリと窓の外を見ていた。


 明日から、本格的に中学生活が始まる……。

 大変だよ、ホントに。

 勉強しなきゃ。

 部活とか、決めなきゃ。


 いや、でも、その前に――。


 今日の夜ごはん、何にしよう?

 とりあえず、帰り道、スーパーに寄んなきゃだ。

 おばあちゃんちの冷蔵庫、見事に空っぽ。

 ったく、大忙しだよ、マジで。


 シャンプー、リンス、ボディーソープ、その他、スキンケア系?

 あぁいうの、全部家に置いてきちゃったし。

 取りに帰るべきなのかな?

 いやいや、どう考えてもメンドくさいっしょ。


「先生の話を聞いているのかな、本宮すみれくん?」


 いきなり、私のそばで誰かが言った。

 「はい?」とそちらを向くと、いつの間にか先生が目の前に立っている。

 私はあわてて、きちんと姿勢を正した。


「あ、はい! すいません! き、聞いてます!」


 うわぁ、マジか……。

 入学初日から、私、いきなり目をつけられた?

 ヤバいよ、それ……。

 どうしよう……。


 そう思いながら、私はゆっくりと先生の顔を見上げる。

 そして――息が止まった。


 あ、あれ?

 何と言うか……めちゃくちゃ見たことがある顔が、そこにいるんですけど?


「ひさしぶりだね、すみれ。これが終わったら、ちょっと職員室に来なさい」


 小さな声でそう言い、私にほほ笑む担任の先生。

 あ、あの、あ、あなたは、もしかして……。


 お、お父さん?

 2番目――じゃなかった、3番目の、お父さん?

 あ、そういえば、3番目のお父さんは、学校の先生だった……。

 教壇に戻った彼が、明日からの時間割の説明をはじめる。


 あの、すいません、神様……。

 どうして私の中学に、3番目のお父さんがいるんですか?

 しかも担任って……。


 って言うか、3番目のお父さんって、何ですか?

 フツー、中1だったら、せめて2番目くらいじゃないですか?

 ホント、私の人生、マジで意味わかんないんですけど?

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