2 ファムファタルの実家

 おばあちゃんちに向かいながら、私はママのことを考えていた。


 私のママは、私と違ってすごくモテる。

 何て言うの?

 男の人が、放っておかないタイプ?


 ママは若くして私を産んでるから、まだギリ20代。

 おまけにスーパー童顔だから、ハタチくらいに見えた。

 よく姉妹に間違われるけど、あの人、マジで私の母親だから。


 しかし……あの人、また結婚するのか……。


「すみれ。私はね、ファムファタルなんだよ」


 ママはよく、自分のことをそう言う。


 ファムファタル。

 フランス語。

 意味は、男性にとっての『運命の女』。


 うん。

 なんだかオシャレで、響きが良い。


 でもね、ママ。

 それ、現代ではちょっと意味が違うんだよ?


 今どきのファムファタルは、『男を破滅させる魔性の女』って意味。


 あとね、ママ。

 これ、私、けっこーマジで言いたいんだけど――少しは一人娘のことを考えてくれないかな?


 私、一体何人パパがいると思ってるの?


 義理の父とはいえ、今のところ4人もいるんですけど?

 パパが4人もいるって、それ、どういう状態?

 そんな人、いる?


 って言うか、次はもしかしたら5人目なんだよね……。

 パパが5人もいるって、私、どんな人生なの?


 でも、私はまだ中学生だから、ママには逆らえない。

 あれで性格が最悪なら、とっくに家を飛び出してる。

 だけどママは、ホントに良い人。

 ただ、恋多き女なだけ。


「ったく、やれやれだよ……」


 そうため息をついてるうちに、私はおばあちゃんの家に到着する。


 コーポ・ディッシュ


 ヘンな名前。

 意味は、何?

 『お皿アパート』、みたいな感じ?


 私のおばあちゃんは、このアパートの管理人室に住んでいる。

 いわゆる、大家さんだ。

 おじいちゃんは、とっくの昔に亡くなってるから、一人暮らし。


 アパートの前に立ち、私は久しぶりに来る、その建物を見上げた。


「今日からここで暮らすのか……」


 ボロボロな木造。

 オシャレ感、ゼロ。

 思いっきり昭和なたたずまい。


 ママは生まれてから、ずっとここで暮らしていたらしい。

 で、JK時代にパパとここで知り合い、恋に落ちた。


 あ、ここで言うパパは、1番目のパパ。

 つまり、私の本当のパパ。

 リアルお父さん。

 まぁ、彼はもう、すでに亡くなっているんですけどね……。


 ママと、リアルお父さんの出会いの場所を見上げながら、私はつぶやく。


「で――あれは一体、何?」


 アパートの屋根の上に、なんだかヘンな物体が設置されている。

 空に向かって広げられた、わりとビッグな白いお皿。


 いや、マジで、何、あれ?

 謎すぎるでしょ……。

 おばあちゃんちに来るたびに、気になってるんですけど?


 衛星放送とかを受信する、アンテナかな?

 にしては……なんだかミョーに大きくて、ムダに本格的な気が……。


 おばあちゃん、なんであんなのをアパートの屋根にくっつけてんだろ?

 なんか、恥ずかしくない?

 あれじゃ、まるで、ちょっとアレな人が住んでるアパートみたいじゃない。

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