第48話 ジャンク品を買う前に
「店頭でジャンク品を買う時に、注意するポイント」
「私買わない」
「ならいずみは黙ってて」
磐梯いずみがムクれたけれども、放っておく真一である。
「ボディの色や形でまずおおまかに欲しい形式かを見てから、床下を見る」
「床下?」
「床下が一番、メーカーの特徴が出るんだ。まずは台車の裏側から見て、中心の固定ネジの左右にある集電機構を見る。ここがバネである場合はトミックスかマイクロエース製品」
「バネじゃない場合は?」
「バネじゃないのはKATOかな。KATOの最近のは台車の固定にネジを使っていないスナップ機構なので、そこでも見分けられるよ」
「ふうん」
返事はしつつも、いまひとつ興味がなさそうな蔵王ひかり。
「そして連結器。台車から伸びてる柄が取り外しできるのはマイクロエース。取れなさそうなのは他のメーカーのだよ」
「連結器にも種類があるのよね?」
「うん。でもその説明はまた今度。とりあえず、台車や連結器の種類と付き方でメーカーを特定することが大切だ」
「どうして?」
「だって、連結器が違ったら繋げられないよ。それに、メーカーが違うと微妙にボディの色や形が違っていて、じっくり眺めるとそこが気になる場合もある」
「なんでなんで?電車なんて元があるものだし、形は一緒でしょ?塗料だってみんな同じ色じゃないの?」
突然磐梯いずみが食いついてきた。どこがツボだったんだろうね?
「あのさ、中濃ソースだって、メーカーによって味が微妙に違うだろう?」
「うん」
「冷凍チャーハンだって、メーカーによって具の種類とか寮とかが違うだろう?」
「うん」
「そういうこと。全然違ってはいなくても、メーカー独自の解釈があるんだよ」
「なるほど」
「だが油断してはいけない」
真一が悪い顔になり。芝居がかった口調で続ける。
「同じメーカーで同じ形式でも、作られたロット……出荷された時期によって微妙に色が違う場合があるのだよ!」
「えーなにそれ」
「なので、中古店によってはその模型がいつ頃生産されたものかを明記してくれてる場合もある。あくまで一般の中古品の話で、ジャンク品にはそういうのはないけどね。つまり、ジャンク品はちゃんと自分で欲しいものかどうかを判定して買える人にだけ許された品なんだよ」
「……めんどくさい」
腕を組み、ジト目の蔵王ひかりが真一を睨む。
「あとは、状態についてメモがある場合もあるからちゃんとチェックだ。これはどんな中古品でも大切だよ。洋服なら色落ちがあるとか、家電製品なら外装にヒビが入ってるとか、本なら汚れがあるとか」
「状態によって値段が違うものもあるわよね」
「うん。異様に安いものは、どこかにマイナスポイントがあるから気を付けよう。例えば、モーターから異音がするとか、接着剤のはみ出しがあるとか、ライトが点かないとか」
「ジャンクだものね、色々あって当然ってことかな」
中古のCDなんかもそうですよね。安いのはケースが割れてたり、歌詞カードが汚れてたり。
「ま、趣味の品だから、どこまでこだわるかだよ。ちゃんと箱に入ってる新品や中古で済むならそれでいいけど、そういう手段で手に入らないものはジャンク品かオークションで探すしかない」
「なるほど」
「僕の485系も二両増やしたいんだけど、これは増結二両セットの箱入り中古で五千円くらいする。でもジャンク品でうまいことすると三千円くらいで買える」
「あらお得」
そう、理想論だけならお得なのだけれど。
「でも、色がうまいこと合わないんだよなぁ。僕の手持ちは屋根が銀色の国鉄型だけど、ジャンクで売ってるのはグレーのJR化後だったりするんですよ」
「はあ」
「二両だけ屋根の色が違うのも嫌だしなぁ」
「じゃあ塗ったら?銀に」
はああと深いため息を真一はついた。
「実は国鉄とJRで違うのは屋根の色だけじゃなくて、他にもあちこち違うんですよ。その差をどうにかしようとすると、これがまたお金がかかる」
「なら最初から五千円の箱入り中古買うのがいいわね」
呆れたように磐梯いずみは肩をすくめた。
「そうなんだよなぁ。ああ悩む。悩むんだけど、悩んでる時が一番楽しかったりもするんだ。それが趣味ってもんだよ」
「私はすっきり爽快、悩まないのがいい」
「私もそれがいい。あっいずみ姉さん、今度粉吹き芋のコツ教えて下さい」
「いいわよ、他にも何かあったらついでに教えたげる」
退屈だったのか、料理の話に盛り上がり始めた二人を見て……ふん、男のロマンを解さない奴らめ!と思う真一だったけれど……
ま、二人は女の子ですからね。
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