第49話 見分け方

 「さて、国鉄型電車の全盛期と民営化後の見分け方なんだけど」

 「そんなの見分けてどうするのよ」


 電車に興味のない磐梯いずみはあっさりとひっくり返す。


 「だってほら、時代設定とか統一感とかあるだろう。時代劇で役者さんが『ハッスル』なんて言ったらおかしいだろ」

 「なんか微妙にズレてる気がするけど、でもどこで見分けるの?」


 比較的協力的な蔵王ひかりに見えるけど、実は真一のオタトークをさっさと終わらせたいだけだったりする。


 「まずは屋根の上。ベンチレータ、つまり通風器が乗っているのが国鉄時代で、民営化後は撤去されてるものが多いんだ。これはエアコンを載せるのが当たり前になったのと、電車の中が禁煙になったから換気をしなくて良くなったというのが大きい」

 「ええ?電車でタバコ?」

 「そう。今じゃ信じられないかもだけど、車内に灰皿がある電車も普通に走ってた」

 「特急とかだけじゃなくて?」

 「うん」


 昔、まだ客車列車が走っていたころなんかは普通に喫煙可で、徐々に電車化されたもののあまり混雑しない区間についてはそのまま喫煙可能、なんてこともあったようです。『〇〇より先は喫煙可』みたいな掲示もされていたそうですよ。


 「それともう一つ。ゴムの色がある」

 「ゴム?」


 真一はモハ484のドア窓を指さす。フチに灰色の印刷がされているのが判る。


 「国鉄時代はこのHゴムの色が灰色で」

 「エッチゴム!?もう真一!何変な事を言い出すの!?」


 顔を真っ赤にする磐梯いずみと、何が起きているのか理解しかねている蔵王ひかり。


 「やだわもう、そんなの誰と使う気よ?」

 「いや。だからこれはHゴムって言って、ガラスを固定するためにアルファベットのHの形をしたゴムなんだよ。これが日差しで劣化するもんで、民営化直前あたりから黒いゴムが使われるようになったんだ。って話をだね」

 「なによもう!紛らわしい話しないで!」

 「何と勘違い……あっ」


 思い当ってしまった蔵王ひかりが頬を赤らめる。きっ、と真一を睨む磐梯いずみ。


 「そうよね、男の子なんだから仕方ないのよね、きっと」

 「うんうん。だけど間違えたら駄目よひかり。そういうのは将来設計をちゃんとして、責任を取れる男になってからじゃないとって教えないと」

 「そうですね姉さん。私たちで弟を正しく導かねば」 


 何か使命感に目覚めた二人に、困惑する真一。


 「いや、だからね?ものによってはこのゴム部分が黒で印刷されてるガラスパーツをオプションで売ってるし、他の部分のゴムも黒くなってる場合があって」

 「もうゴムの話はやめなさい!」

 「一体なんだって言うんだ……あっ」


 そしてとうとう真一も同じ答えに行きついて、目線が泳ぎ始める。


 「とっとにかく、そういう細かい違いを再現するのが鉄道模型の醍醐味の一つでもあるわけで」

 「なるほどね。どちらにしても真一には、何かお仕置きが必要だわ」

 「ですね姉さん」

 「なんでだよ……勝手に誤解したの、そっちじゃないか……」



 ちなみに、近年の車両ではガラスの固定に金属を使ったり、接着剤で直接シーリングしているので、Hゴムが目立つ車両はほとんどないようです。




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