第46話 磐梯いずみはヤンデレじゃないその8

 翌日。私はこそこそ出かけようとする真一を捕まえて同行することにした。安心しなさい真一。私が必ずあなたを守って見せる。もう誰も悲しませない。



 電車に乗り、二つ先の駅で降りて五分ほど歩く。


 結構立派なマンションに真一は入っていく。装飾が華美なことはなく、落ち着いた中に高級感がある。シニアとか高齢者世帯向けなんだろうか?


 真一が入り口脇のモニターを使って、あの女と会話をするとガラスのドアが開いた。


 「ほれ、行くぞ」

 「おー、オートロック」


 私はわざとおどけて見せる。ここからの展開次第では、真一を守って戦う必要があるかも知れない。お姉ちゃん、頑張るぞっ。


 エレベータで数階上がり、少し先の部屋のドアホンのボタンを押す真一。私はその陰に隠れる。


 「や、やあ」

 「いらっしゃい


 出たな陽キャ。やはりここがお前の本拠だったか。


 「実はその、おまけがついて来ちゃって」

 「おまけ?」


 おまけとはひどい。素敵な姉くらい言わんかい。


 とにかくまずは友好的に。ぴょん、私は真一の影から飛び出した。


 「ども、磐梯いずみでっす」

 「お姉さん?」


 陽キャは少し驚いたようだったけれど、笑顔で私たちを迎え入れた。むむむ、やるなお主。



 そして運転会が始まった。



 大きなテーブルに小さな楕円形のレール。そこをまず真一の特急が走り、そして私のチキンラーメン号も走る。可愛いなこれ、買って正解だった。


 そして陽キャの機関車を走らせている時に……彼女がぽつりと言った。



 「いいな、そういう関係。憧れちゃう」



 私はその時、彼女の瞳に悲しみを見た。それは、あの日の真一と同じ色だった。


 あっ、ひょっとしたらこの子、同じなのかも知れない。他人からの一方的な評価に抗い、自分なりの価値観を貫きたいと思っているのかも知れない。そして、自分がいるべき場所を探しているのかも知れない。


 私には、判ってしまった気がした。


 「私、小さい時はずっと一人だったから。転校してばっかりで、自己紹介だけ上手くなって。そういう風に、誰かと深い部分で繋がってるのって、すごく羨ましい」


 この子は陽の側にいても本質は陰。ただ、自分で殻を作れた真一と違って、光で身を守ることしかできなかったのだ。


 だから私は、彼女の手を取ってこう言った。



 「じゃ、今日から混ざろ」



 私の中のわだかまりがすっと溶けた。何のことはない。この子はずっと、自分のいる場所を探していたんだ。本当の自分を見てくれる人を探していたんだ。でもただ光が強すぎて、そこから出ることが出来ないだけだったんだ。


 「今日からひかりは私の妹。真一が末っ子」

 「ちょっと、なんでそうなる」

 「いいんですか?」


 ずっと弟でいることが当たり前だった真一には、その彼女の言葉の意味が判らなかっただろうと思う。心の繋がりを他人に求めることは難しい。自分から言い出すことなんて出来やしない。


 だから私は手を握ったんだ。


 「もちろんよ。これから三人姉弟、仲良くしましょ!」

 「うわぁ、うわぁ、嬉しい!」


 ひかりちゃんの綺麗な瞳が潤んでいる。可愛いじゃないの!




 こうして私は可愛い妹を手に入れ、可愛い妹となったひかりは私と言う姉と真一という弟を手に入れた。真一だって、綺麗な姉が増えることに異論はないだろう。


 これからはひかりの分のお弁当も私が作ることにした。そして放課後には、ひかりちゃんにお料理も教える。姉妹として、出来る限りのことはしてあげたいと思う。





 「それで?」


 はるかがジト目で私を見る。


 「だからね、紹介。私の妹、ひかり」

 「よ、よろしくお願いします」

 「んー……」


 ショートカットの頭をぼりぼりと雑に掻きながら、はるかはやっぱり私をジト目で見る。


 「いずみん」

 「はいな」

 「……まあいいや。あたしは二年の別府はるかだ。いずみんの妹ってんなら、これから絡む機会も多いだろ。ま、よろしく頼むよ」

 「はい!」


 ああひかりは可愛いなぁ。こんなに可愛い子を心から笑顔にできなかっただなんて、周りは今まで何をしていたんだろう。



 でも、それは私にも言える。彼女の放つ光に惑わされて、彼女が本当に求めているものに気付かなかった。気付けなかった。思い込みと印象だけで決め付けてしまっていた。これは大きな反省ポイントだ。


 この子と姉妹になることで、私もこの子もまた一つ成長できるんだ。


 そう思うと嬉しくて、私はひかりとはるかを両腕に抱いて、両方の頬でスリスリした。


 「むひひひひ、みんなかぁいい!」

 「ちょっ、ちょっといずみん!」

 「あはは、姉さんったら!」



 二人の声が心地よく響く。みんなで楽しく幸せに!






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 どうもです。


 タイトルは「ヤンデレじゃない」って書いてますけれど、かなり変ですよねこの磐梯いずみって人。書いていて、この人何言ってるんだ?とかなんでそうなる?と首をかしげることが何度もありました。


 悪い人ではないんですが、真一に関することになると何もかもがバグっている感じになりすぎて、別府はるかがどうしてこいつの親友をやっているんだろう?なんて思ってしまいました。自分で書いてるのに。


 本質の部分では、蔵王ひかりも磐梯いずみも同等のポンコツです。こちらも当然のように真一に対して恋愛感情は持っていませんが、作中で漏らしたように「子供は欲しい」という謎の発想は持っています。そこはひかりよりも一年長く生きている結果なのかも知れません。



 これは裏話と言うかただの実話なんですけれど、別府はるかの事故周りについての話から病院での会話のあたりまで、本編を書いている時には全く意図していませんでした。伏線のつもりもなくて、ただ朝お弁当を持ってこない→理由がお昼に判明する程度の、本当に真一視点くらいの認識しか書き手側にはなかったんです。それが磐梯いずみの話を書いていたらするするとなんか事情が出て来まして、書いてるこっちが「おお、そうだったのか」なんて納得するありさまでした。絶対おかしい。


 とりあえず三人の関係も固まって、ここからいよいよ本格ラブコメと行きたいところなんですけれど、基本的に恋愛感情抜きで繋がってしまったので、しばらくは鉄道模型あるあるネタとかをゆるゆるやりながら関係性の熟成を図る時間なのかなーと勝手に思っています。いずみに恋する後輩とかひかりのライバル的存在とか考えてみたけど、今のままだとどうにもならない感がすごくて……



 なのでちょいと休憩を頂いた後に、まずは小ネタを展開しながら模型の沼にずぶずぶと踏み込ませていこうと思います。サザ〇さん時空というか、四コマ漫画的な感じで出来たらいいなぁ。あんまり堅苦しくはしたくないですしね。



 これから三人の変な関係がどう発展していくのか、それともしないのか。今後は不定期更新になると思いますが、ゆっくり見守っていただけたら、幸いです。



 それでは!



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