第42話 磐梯いずみはヤンデレじゃないその4
「今日は真一くん一人だね」
共に尾行をするはるかが言う。結構ノリノリで付き合ってくれるのはいいんだけれど、私には若干の気がかりがあった。
「はるか、付き合ってくれるのは嬉しいんだけど……部活どうなの?」
「あー、んー。あたし今、部活辞めようか悩んでるんだ」
「ええ?もったいないよ、はるかの運動神経ならエースなんて簡単じゃないの?」
「うーん、そうなんだけどさ。実はここだけの話」
はるかは、自分の左の膝を指さして苦笑いする。
「ちょっと前から膝の調子がイマイチなんだ。それで、あんまり飛んだり跳ねたりしたくないんだよ」
「あー、だからサポーター」
はるかの左膝には、去年の暮れあたりからずっとクリーム色のサポーターが付けられていた。そういえば、はるかが部活をサボるようになったのもその辺りだ。
「部員もみんな知ってるから、こうやってサボってても何も言われない。でもさ、期待され続けるのもちょっと辛くてね」
私ははるかにぎゅっと抱きついた。
「うんうん、いいんだよはるか。人は逃げてもいいんだよ。無理して壊れちゃうのが一番駄目」
「ありがといずみん。部のみんなも顧問も、籍だけでも置いといてくれって言うんだけどね、すっぱり辞めることにするよ」
「ごめんねはるか、もっと早く気づいてあげられてたら」
「いいよ、私もわざと言わなかったし。言ったらいずみんのことだから、膝に効くサプリとかお札とか塗り薬とか変な民間療法とか持ってきそうだもん」
「変って言ったなぁ?」
「あはは、いずみんに心配かけたくなかったんだよ」
「最初からそう言え」
私は手を伸ばして、はるかの短い髪を撫でる。はるかはずっと、髪を伸ばしたいと言っていた。三年になって部活を引退したら伸ばそうか、と言っていた笑顔を思い出す。律儀な彼女はきっと、来年の夏までは髪を短く切り揃えるだろう。
「あはは、だからいずみんのストーカー行為にも毎日付き合うよ」
「ストーカーじゃないって。これは姉弟愛だよ」
「自覚がない」
快活に笑うはるか。だけどその胸の内はきっと苦しいだろう。私はそれでも笑って見せる友人を、誇りに思う。
そしてその夜。ドアをノックしても気づかないくらいに、作業に集中している真一に私は少し安心をする。あの嘘は何かの間違いだったに違いない。
一通り分解を終えたらしい真一が大きく息を吐く。
「今日はここまで?」
「うん。明日、塗装について友達に聞いてみるつもり」
「友達って、新しく出来たっていう?」
「そう。プラモマニアだって言うから、塗料とかも多分詳しい」
「ふーん」。
あの陽キャがプラモマニア?なによそれ!?なんでそんなに楽しそうに話をするの!?絶対騙されている。陽キャ女子がプラモデル?そんなわけがあるものか。
私の不機嫌モードを感じ取った真一が、二晩連続での儀式へ私を誘う。
ふむ、今宵は三十分で許してつかわす。この時間は二人だけのもの。
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