第33話 新しい絆その1
しばらく磐梯いずみのチキンラーメン号を走らせた後、次は蔵王ひかりのEF65PFがレールの上を走る。
「知ってるよ、これ。ブルートレインだよね?西村狂四郎」
「なんか混ざってるぞ」
「寝台特急なんとか殺人事件」
「なんとかの部分が一番重要だ」
「そうなんだよクマさん、と十津川は言った」
「そりゃ亀さんだ」
僕と磐梯いずみのやりとりに、蔵王ひかりが吹き出した。
「ぷぷぷっ、あなたたちのやりとりって本当に面白い」
「いつもこんなもんだよ」
「いいな、そういう関係。憧れちゃう」
ぽつり、と蔵王ひかりは言う。
「私、小さい時はずっと一人だったから。転校してばっかりで、自己紹介だけ上手くなって。そういう風に、誰かと深い部分で繋がってるのって、すごく羨ましい」
ちょっと遠い目をする蔵王ひかりの手を、磐梯いずみはすっと取った。
「じゃ、今日から混ざろ」
えっ?
僕は……いや、僕と蔵王ひかりは、その磐梯いずみの発言の意味が掴めなかった。
「今日からひかりは私の妹。真一が末っ子」
「ちょっと、なんでそうなる」
「いいんですか?」
あれっ、蔵王ひかりが食いついたぞ!?
「もちろんよ。これから三人姉弟、仲良くしましょ!」
「うわぁ、うわぁ、嬉しい!」
う、嬉しいものなのか?僕は一人会話について行けていない。けれど蔵王ひかりの目がうるうるしている。演技じゃないっぽい。
「こんな素敵なお姉さんと弟ができるなんて!」
ちょっと待て。
「弟はちょっと引っ込み思案だけど悪い子じゃないから、クラスで孤立しないように見守ってあげてねひかりちゃん」
「はいいずみ姉さん」
「真一もひかり姉さんの言うことよく聞いて、しっかり勉強するのよ?」
「そうよ、悪い事したらすぐいずみ姉さんに言いつけるから!」
浮かんだ涙を拭きながら、蔵王ひかりは微笑んだ。何この展開……こうなってしまっては、僕の意見など入る余地はないだろう。だけど、せめてもの抵抗をする。
「いやいやいや、変な設定押し付けるなよいずみ。ごめんな蔵王さん、迷惑だろ?無理に付き合わなくていいんだよ」
「ううん全然。それから、私のことはひかり姉さんと呼びなさい」
「えっ……」
まさか、教室でもそれを強制されるのか?
「そうよ真一、ちゃんと呼びなさい。そうだ、明日からはひかりちゃんの分もお弁当作ったげる」
「ええ?いいんですか?」
「いいのいいの、一人分増えるくらい問題ないし。しばらく私が作るから、その間にひかりちゃんは自炊の練習するといいよ。で、慣れたらお弁当は交代で作ろ」
「はい!頑張ります!」
腰に手を当てて満足そうに頷く磐梯いずみ、そしてそのいずみをまるで救世主でも見るかのような瞳で歓喜に打ち震える蔵王ひかり。一人世界から取り残される僕。
「午後って何か予定ある?」
「えっと、真一と何か食べにいくかなって考えてたくらいで」
えーもう呼び捨てにされてるんですけど僕。
「じゃあさ、うちおいでよ!お昼も作るし、私の持ってるお料理の本とか貸してあげる」
「いいんですか!?」
「新しい妹のお披露目もしないと。ね、真一?」
「……好きにしてくれ」
おかしい。地味に生きて行きたかっただけなのに。だから部活も入らなかった。ぢからクラスでも自分からはなるべく動かないようにしていた。だから趣味もインドアで、他人があまりやっていない鉄道模型にした。
それに、ちょっと前まで謎の対抗意識みたいな警戒モードだったくせに、なんだろう、この二人の急な結束は。
まぁ何にしてもも人が俯いているようは笑顔の方がいい。僕は無理にそう思い込んで、色々納得行かない部分を心の奥に押し込めることにした。
明日からどうなっちゃうんだろう。
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