第30話 お誘いその2
確かに、挙動不審ではあった。
僕が帰宅し、夕食と風呂を終えて自室に戻ると……ベッドの上には黄色い寝間着姿の磐梯いずみが寝転がってスマホを眺めていた。あれっ、自宅にいると思ったのに、なぜかこんな所にいる。
僕はわざとらしく、大きくため息をつく。
「勝手に人の部屋に入るなって」
「真一は、チキンラーメンって好き?」
何を言っているんだこいつは?
「チキンラーメンって、あの?」
「そう。あのチキンラーメン」
何を訊かれているのか。この問いになにか深い意図が隠されているのか?
「よく判らんが、カップの奴は好きじゃないな。ネギと卵が邪魔に感じる」
「そうじゃなくて」
ますます判らない。
「質問の意味が判らない。好きか嫌いかで問われたら、嫌いじゃない」
「ふむ」
「カップより袋の方が好き」
「ふむふむ」
「カレー味とかよりも、オリジナルが好き」
「なるほど」
スマホから目を離さずに、磐梯いずみは平坦に言う。
「じゃあさ、チキンラーメンと私だったらどっちが好き?」
「何その選択肢。比較対象おかしくね?」
「迷う問題かな」
「いや、食べ物と人間はどっちが好きとか比べられないだろう。お前は食べられたいのか」
「ふむ」
僕は椅子に座って机に向かうと、リビングの物入れからくすねてきた角型電池をポケットから出して、その二つの電極に接するようクハ481の車輪を乗せた。
ヘッドライトとヘッドマークが光る。かっこいい。電池の向きを逆にすると、今度はテールライトとヘッドマークが光った。旅情を感じる。
ネットで見た、ライトのテスト点灯を真似してみたのだ。これなら、いちいちパワーユニットと線路を出さなくても、ライトを楽しめる。
「じゃあこれでいいか」
ぽつりと磐梯いずみが呟く。じゃあとは何か。これとは何か。追及するのもめんどくさいので、僕は放っておくことにする。
「真一」
「なに」
「……今度の土日って空いてる?」
「ん?土曜は空いてる」
日曜は約束を入れたんだった。僕はクハ481のテールライトに視線を移す。蔵王ひかりの家で、こいつを見せる約束をしたのだ。
「じゃあ日曜ね」
「いや日曜は予定がある」
「いいのよ、気にしなくて」
「ん?話が噛みあってないぞ」
「いいのいいの、こっちの話。それより真一」
むくり、と起き上がって磐梯いずみは言った。
「家に帰る。もう遅いから、エスコートなさい」
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