第19話 分解その1
結局、床下パーツの分解に踏み切れたのは次の日だった。
台車を固定している二本のネジを外せばバラバラにできる。これはかつての破壊活動による知見だ。だけれども、ここで一つ注意が必要になる。いや、二つだ。注意点は二つ。
まず、台車には集電用の小さなバネが二本セットされている。これを飛ばしてしまうと、後々後悔しかねないということだ。何せ、他ではこんな小さなバネなんか見たことがない。
この集電バネは、ヘッドライトやテールライトの点灯はもちろんのこと、オプションで追加できる室内灯にも必要なものだ。失くさないように注意しなければならない。
そしてもう一つ。台車にも形式差があるということだ。
電車の側面や車内に、クハなんたらとかモハなんたらっていう記号が書かれているのをご存じだろうか。あれは、その車両がどういう役目を持っているかの印。
例えばク。これは運転設備があることを示す記号。モ、は電動機……つまりモーターを載せている車両のこと。そしてサは付随車。運転設備もモーターも持たない、引っ張られたり押されたりするだけのトレーラーだ。
そして、そのモーターは基本的に台車に載っている。だから、モーターを持たない車両の台車とモーターを積んでいるそれは、シリーズとして似た形をしてはいても別モノなのだ。
その外見的差異は、当然模型にも反映されている。かつて、鉄道模型がもっとおおらかであった時代にはそこまで厳しい追及がなかったのか、全て同じもので共用していた製品もあったという。でも今は、作り分けが重要視される世界になっている。
なので当然、僕の485系特急型電車も、クハとモハで台車の形が微妙に違うのだ。
分解する時はいいけれど、組み立てる時に間違えてしまうとおまぬけなので……ここで前に、スマホで撮っておいた写真が役に立つというわけだ。
僕はひとつ息を吐いて、精密ドライバープラスの先をネジに当てて回す。ちょっとおっかないので、室内パーツを上にして、左手の親指と人差し指で側面から台車と床下パーツを押さえながら、右手で下からネジを回す。
くるくる回していると、かくっと手ごたえがなくなる。ネジが穴から抜けたのだ。そっと右手の人差し指をネジの頭に添えて、ゆっくり下へ引き抜く。抜いたネジを失くさないように小箱に入れてから、今度は右手で台車をそっとつまんで下へと移動させる。
集電バネがぷるぷるしているのが見える。つい息をひそめてしまう。そのままそーっと、バネを飛ばさないように台車を小箱に入れる。
はぁーっ。緊張した!
「これは、神経を使う……」
思わず独り言を呟いてしまう。
「ドッキドキだね」
突然耳元で声がして、僕は本当に心臓が止まるかと思うくらいに驚いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます