第17話 構造その1

 鉄道模型を形づくっている樹脂は、それなりに弾性がある。

 だから、Nゲージの車両の多くはハメ込みで組み立てられていて、ネジの出番は少ない。


 特に機能を持っていない中間車や客車などは、ボディの端っこに力をかけて少し広げることで、ボディと床下&座席パーツを簡単に分離できる。



 これは過去の破壊活動で得た知見である。



 先頭車の場合、運転室側にはヘッドライトやテールライトを光らせるためのユニットや光を導くためのプリズムが組み込んであるので、そちらではなく連結面から外す必要がある。これをうまくやらないと、透明なパーツを折ってしまう可能性があるのだ。


 僕はクハ481二両とモハ485をゆっくり分解してみた。破壊したクハ481もそのまま取ってあったので、その構造を参考にしながらだ。


 黒い床下パーツ、クリームの座席パーツ。それは、台車を床下に固定しているネジで留められているようだ。僕はスマホを取り出して、その状態の写真を撮る。こうすることで、元の状態に戻しやすくするのだ。プラモと違って。組み立て説明書がないから仕方ない。



 うーん、このネジ二本外せば分解できそうだな。特にツメがありそうな感じもない。



 僕は机の上に並べたそれらを見て、ふうと息を吐く。緊張するな、どうも。


 と、背後でコンコンとドアを叩く音がする。振り返ると、磐梯いずみが半開きのドアから顔を出していた。


 「だからノックの意味がないっていつも言ってるだろ」

 「細かいこと気にすんな、真一のくせに」

 「の〇太のくせにみたいな感じで言うな」


 にっひっひ、と嫌な含み笑いをしながら後ろ手でドアを閉め、僕ににじり寄る磐梯いずみ。


 「お前も年頃の娘なら、男子との距離感を考えろ」

 「なになに~?もっと詰めた方がいい?」

 「周りの目を気にしろって言ってるんだ」

 「自意識過剰だよ。みんなそんなに気にしてないって」


 ぽん、とベッドに腰掛ける磐梯いずみ。僕の部屋だというのに我が物顔だ。


 「……真一さ、最近友達できた?」


 いずみの声は静かだった。あんまり聞いたことのないトーンだ。


 「ん?ああ、クラスで話す奴は出来たよ」


 僕は脳裏に那須野の巨体を思い浮かべた。あいつはもう友達だと言ってもいいだろう。


 「そいつに教えて貰って、ほら」


 僕は買って来た精密ドライバーセットを手に取って、軽く振った。カチャカチャと音がする。


 「模型弄りに使えるらしいんだ、精密ドライバーのセット。百円なんだぜこれ」

 「ふうん」


 訊いてきたくせに興味無さげな磐梯いずみ。


 「で、今は何してるの?」

 「分解してみて、これからどうするか考えてる。室内パーツの色を揃えたいんだ」

 「ふうん。ちゃんと椅子があるんだね」


 ベッドから立ち上がり、机の上のパーツに顔を寄せて磐梯いずみは言う。シャンプーの香りがする。


 「よく出来てるよな。でもミニカーも座席とかあるし、普通か」

 「ミニカーかぁ。私、焼きいもトラックのミニカー見たことあるよ」

 「そんなのあるんだ」

 「スポーツカーより、生活感あって可愛いよね」

 「生活感があると可愛いのか?」

 「他所行きよりも、普段着ってこと」

 「なるほどわからん」


 僕はとりあえず、中間車モハ485の床下セットを手に取る。よく見ると、床下の黒いパーツと室内のクリーム色のパーツ、どちらにも→が彫刻されている。


 なるほど、これで組み上げる時に間違えないようになってるんだな。


 ふと気になって、僕はモハ485のボディをひっくり返してみた。屋根の内側、天井にあたる部分にも→の刻印があった。



 なんと親切な!



 その時僕の脳裏に【鉄道模型っつっても、Nゲージなら量産品だろ?】という那須野の言葉が蘇った。なるほど、効率よく作るためにこういう工夫があるんだ。うーむ、奥が深い。




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