第13話 進言その1
動力ユニット用、付随車用の座席パーツを共に『メカイス』と呼ぶらしいことはネットで知った。だけど、そんな知識は全く必要ない。今僕が困っているのは色なんだ。
壊してしまった動力ユニットのそれは、力任せにもいでしまったので固定用のツメは折れているし、あちこち曲げてプラが白化している。新しい動力ユニットのとは形は同じに見えるけど、差し替えには使えない。というか、分解するのはまだ怖い。
最新の鉄道模型は室内もそれなりに作られていて、シールを貼ったり色を塗ったりして再現し、白色LEDの照明を点けて眺めるという楽しみもできるようになったそうだ。たぶん、室内パーツの色プラ化はそういった楽しみのための改良なんだろう。
「おう松島どうした」
巨体をゆすって那須野がやってきた。そう言えば、こいつもモデラーなんだっけ。
「ちょっと考えててさ」
「何?弁当彼女のこと?いいよなお前んとこは」
「全く違う」
「話してみろよ、どうせそれだろ?」
那須野は開きっぱなしのカタログを顎でくいっと指し示す。
「うん、まあ。実はちょっと困ってて」
「困ることなんてあるのか?」
「昔壊した車両を修理してるんだけど、最近のパーツと色が違うんだ」
「色?」
「形は同じなんだけど、新しいのは色がついてるんだ。古いのはクリーム色なんだけど」
「ふむ」
那須野はカタログのページをぺらぺらめくる。
「どっちが多いんだ?」
「クリームが三両で、青が一両」
「なら青いのをクリームに塗るのが楽かな」
「それがそうもいかないんだ」
僕は後ろの方のページ、交換用パーツの動力ユニットを那須野に見せる。
「モーターのついてるこいつだけが青なんだ。これを分解するのが難しそうで」
「……なら、三両の方を青に塗る方が楽っぽいか」
事もなげに那須野は言ってのける。
「色を塗るって、どうやるんだ?」
「そりゃお前、分解して色を付けたいパーツだけにしてから、ホビーカラーとかのスプレーでプシューだよ。下地の色によっちゃサフ噴いた方がいいけどな。あれ?お前プラモとか塗装しない人かね?」
「ああ、基本は素組でガン〇ムマーカーで色差しするくらい」
「まー今はそれが普通か。キャラモデルは色プラの時代だもんな」
そういえばこいつは艦船モデラーだったっけ。
「鉄道模型っつっても、Nゲージなら量産品だろ?なら構造はそんなに複雑じゃないはずだ。じっくり観察してゆっくりやれば分解も難しくないと思うぞ」
「でもなー、値段高いからおっかない」
「そしたら青く塗るしかない」
あっさり那須野は言った。
「動力ユニットを分解したくないなら、動力のない方を塗るのが早いな、多分分解の手間も少ないだろ」
「やっぱりそうなるかね」
「時にお前、分解用の工具なんて持ってるのか?」
「いや、親の持ってたドライバーくらいかな。普通のやつ。あとはプラモ用のニッパーと、ピンセットくらいかな」
「それじゃ足りないな、ちょっと待ってろ。いいもの教えてやる」
那須野は言うと自席に戻った。
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