第12話 困惑その2

 僕は困惑していた。


 買って来た交換用の動力ユニット。その座席パーツは、青いプラスチックで成型されていたのだ。手持ちの車両の座席パーツは全て薄いクリームである。形は同じなのに、色が違う。机の上に買って来たものと特急電車たちを並べて、僕は頭を抱えた。




 そう言えば、この座席パーツをうまく外すことができなくて、小学生時代の僕は破壊行為に走ってしまったっけ。



 動力ユニットの構造をもう一度よく見てみる。サイドのツメで、ダイキャストでできている本体にがっちりと固定されている。これをこじって外すには、何か細くて尖ったものか、小さいマイナスドライバーが必要だ。


 うーん、と考える。そしてとりあえずボディにそのままはめ込んでみる。ぱちんとハマってくれたので買って来たものは間違いではない。間違ってないけど色が違う。ボディを被せたら目立たないかな?と思って他の車両と並べてみたけれど、比べてしまったら、目立つ。


 うーーーーーーーん。


 ネットを色々検索してみた。国鉄特急型の座席モケット、つまり張ってある布は青だった。そして模型の製品化が古かったものはクリームで、最近のものは座席モケットをイメージした色のプラスチックで成型されているいう。


 なるほど、僕の買ってもらった特急セットはラインナップ初期のもので、この交換ユニットは最近のものなんだ。だから食い違う。機能的には問題ないのに、色が違うって……



 背後で、コンコンとドアを叩く音がした。振り返ると、半開きのドアから磐梯いずみが顔を出している。


 「返事があってから開けないと、ノックの意味がないっていつも言ってるだろ」

 「えへへ、何?勉強してた?それともえっちな本でも読んでた?」

 「どっちもハズレ」


 後ろ手でドアを閉めながら、磐梯いずみが部屋に入ってくる。こいつが遠慮ないせいで、僕はエロ本もエロゲーも持つことができない。ネットの閲覧履歴すら監視されてる可能性がある。全て両親公認というのが実に悪質だ。


 「はー、電車のオモチャかぁ。昔壊したやつだよね?」

 「そう。直してるんだ」

 「ふーん、直りそう?」

 「もう動くことは動くよ。だけど、室内の色が違うからどうしようか悩んでる」

 「ふーん」


 磐梯いずみは、クハ481-300に顔を近づけてまじまじと眺める。


 「細かいよねこれ」

 「1/150だからね」

 「ね、走らせてみてよ」

 「ちょっとだけな」


 僕は言って、ベッドの上に長い直線のレールを四本繋ぐ。そこに、四両の特急を乗せて連結する。だいたい長いレール二本分の長さの編成が出来上がった。


 パワーユニットからの配線をレールに繋いで、僕はゆっくり特急電車を往復させた。ヘッドライトもテールライトも、そして絵入りのトレインマークもLEDで綺麗に光る。


 「雷鳥?」


 トレインマークを見て、磐梯いずみが呟く。


 「L特急雷鳥。昔、北陸本線で走ってたんだってさ」

 「ふーん」


 国鉄時代のそれは、今ではもう資料でしか知ることが出来ない。それでも模型は残り続ける。


 「最近色々やってるのって、これ?」

 「ああ、またやってみようと思って。秋葉原でも売ってるんだよ」

 「ふーん……ね、お弁当どうだった?」


 磐梯いずみが話題を変えた。


 「さっきも言ったじゃないか。美味しかったよ」

 「えへへ、賛辞の言葉は何回聞いてもいいものだ」

 「でも手間じゃないの?」

 「言ったでしょ、私自分の分も作ってるから。材料費とか考えなくていいんだよ」

 「そういうわけには行かないだろ」


 いずみはにんまりと笑う。


 「いいっていいって。高校生になって、これから何かと物入りなんだから。お昼代、貯金しなさい」

 「せめて少しは負担させてくれよ」

 「そうね……じゃあ週に千円でいいわ」

 「おっけ」


 商談成立といったところだろうか。それからしばらく僕の部屋で、座席パーツの処遇に悩む僕を眺めてから磐梯いずみは自分の家へと帰って行った。





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