第9話 点検その1
「走らないね」
見たところ、ライトも点いていないようだった。通電しているのなら、ライトくらいは点くはずだ。
「何度やっても動かないの」
僕はひとつため息をついて、パワーユニットのダイヤルを中央に戻す。そして電源スイッチを、一度オフにする。
「じゃあチェックしてみるよ。でも、僕も鉄道模型はちょっと前に復帰したばかりだから、基本的な知識しかない」
「そうなの?あんなお店にいるから、詳しいのかと思った」
「あそこは初めて行ったんだ。高校進学を機会に、復帰しようと思って」
僕は言いながら、パワーユニットからレールまでの配線をチェックする。
これは旧式のシステムだ。線路を支えるプラの道床は茶色系で、つまりこれは一世代前のタイプになる。パワーユニットも緑色に5001と書かれた旧型で、写真でしか見たことのないアイテムだ。
配線を見てみる。今の、プラ製のコネクタで簡単に接続できるタイプではなく、パワーユニット側のコネクタに銅線を直接挟み込むタイプだ。でも、断線の様子はない。プラス側とマイナス側の両方とも、きちんと接続されている。
僕は次に行く前に、まずはレールに乗っている電気機関車……EF65PF型をそっと持ち上げて、テーブルの上に降ろした。
「どうするの?」
「ちょっと確認」
僕は財布から十円玉を出して二本のレールに跨るように置き、パワーユニットの電源を入れてダイヤルを右に回す。すると、進行方向を示す緑のLEDが瞬時に赤く変わった。
ショートしている。ブレーカーが作動したから、LEDが赤くなったんだ。
左右のレールにプラスとマイナスの電気を流して走る鉄道模型。電圧が低いとは言っても、ショートが続くと火事の原因になり兼ねない。だから、ショートを検知するとすぐに電力供給が止まるシステムになっている。
「なるほど」
「何か判った?」
僕はダイヤルを戻して、パワーユニットの電源を切り、十円玉を回収する。
「とりあえず、電気はちゃんと流れてる。だから、問題があるとすると機関車の方だ」
「ええ?困ったな、壊れちゃったかな」
「見てみるよ」
僕は機関車を持ち上げて、天地をひっくり返してみた。
銀色の車輪たちの、線路に接する面……これを踏面(とうめんorふみづら)と言うんだけど、そこが真っ黒になっている。
なるほど、そういうことか。僕は納得する。
「なんとかなりそうだ」
蔵王ひかりが、ほっとしたように息を吐いたのが判った。
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