第7話 下校中その1

 校門を抜けて、駅への道を歩く。

 先週はずっと僕一人だった。今日は二人。なぜか美少女、蔵王ひかりが僕の隣を歩いている。


 「松島くんてさ、あの毎朝来る人と幼なじみなんでしょ?」

 「そうだよ」


 正直、あんまり聞かれたくない質問だった。あいつに悪気が一切ないことは判っているけれど、その行動からあれこれ探られたり変な興味を持たれたくない。無駄に目立ちたくないんだ。


 「幼なじみがいるって、どんな気分?」


 どんな気分?そんな質問は初めてだ。磐梯いずみを女性として意識しているか?とか実際は付き合ってるんじゃないか?とかはよく聞かれるけれど、幼なじみがいることがどんな気分か、っていうのは今まで記憶にない。


 「どんな気分って言われても、よく判らないな。小さい頃から一緒にいることが当たり前だったから」

 「家族とは違うの?」

 「家族みたいなものだとは思うけど、家族と同じじゃないな。家族ぐるみの付き合いはあっても、向こうにもこっちにも両親はいるし生活もある。姉弟みたいに育ったとか言われるけれど、やっぱり本当の姉弟とは違うと思うね」


 なんだか喋り過ぎてるな、と僕は思った。


 「ふうん。私ね、小さい頃から親の都合であちこと引っ越ししててね。転校のプロみたいな小学生だったんだ。だから、小さい頃からの馴染みとかそういうの、人も場所もほとんどないの」

 「そうなんだ」


 別に僕は、彼女の事情なんて深く知りたいわけじゃない。だからそっけない返事を返した。


 「だから毎朝、君たちのやりとりを面白く見てたんだ。君、嫌がってるけど本気じゃないよね」

 「嫌がっても、止めないのが判ってるだけだよ」

 「でも、嫌がって見せてはいるんだよね?」

 「嫌がって見せないと、どんどん過激になるんだよ。だから、抵抗するポーズは見せてる」


 また余計なことを言ってしまった。人と話し馴れていないとこうなる。


 「ふーん。所で話変わるけどさ」


 蔵王ひかりは僕の前に立ちふさがるように、立ち止まった。


 「昨日のこと、訊こうとは思わないの?」

 「何の話かな」


 僕は目を逸らした。あの中古鉄道模型店での邂逅についてであろうことは判っている。だけど、僕も彼女もあの場所ではお互いに通行人Aでいいと思う。


 だから僕は、何も聞かないで視線を逸らす。蔵王ひかりは、その逸らした僕の視線の先に回り込む。


 「昨日のこと。訊かないんだ?」

 「だから、何の話かな。訊かなければならないことなんて、特にないと思うけど」

 「成る程」


 蔵王ひかりは何かを考える。考え込む顔も可愛い。美少女って得だよな。


 「松島くんは、他人に興味がないの?」

 「全くないわけじゃないけど、無駄に騒いで注目を浴びたり、他人の秘密を探して広めたりする趣味はないってとこかな。世の中には、知らなくちゃいけないことと、知らなくてもいいことがあると思う。それだけ」

 「ふうん。案外まともなのね」

 「どんだけ低評価だったんだ」


 蔵王ひかりはくすくすと笑った。


 「ね、今日ってこれから何か予定ある?」

 「夕食までに帰ればいいくらいで、特にはないよ」

 「じゃ、ちょっと見てもらいたいものがあるんだけど、付き合ってくれるかな」


 付き合って、なんて単語が蔵王ひかりの可愛い唇から出ると、さすがの僕も少し動揺してしまう。でも前後の文脈から言ってそれは違うのだ。大丈夫、僕は冷静。


 「うん、いいよ。そんなに遅くならなければ」



 彼女はいったい、僕に何を見せたいんだろう。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る