第5話 放課後の教室その1

 高校生の一日が終わった。


 正確に言うと、まだ終わってない奴らもいるけれど、とりあえず僕の一日は終わったということだ。


 この学校は、よその学校にありがちな【部活動の強制加入】のような風習はない。入りたければ入っていいし、そうでないなら入らずとも良い。素晴らしい。


 今週と来週は部活動の勧誘強化期間ということで、休み時間のたびに上級生が教室に来てアピールをしていた。グラウンドを使う定番の野球部にサッカー部や陸上部、テニス部ラグビー部。室内系スポーツだとバスケ、バレー、卓球にバトミントン。武道系だと柔道剣道弓道。


 文化部はこれまた定番の文芸部、ブラスバンド部、合唱部に軽音部。福祉研究部やパソコン部に加えて書道部も茶道部もある。美術部、科学部、天文部なんてものまであった。



 でも僕は、そのどれにも入るつもりはない。



 運動なんて得意じゃないし、体育会系の上下関係に組み込まれる自分もうまく想像できない。文化部も同じだ、新しい人間関係を作るのは面倒くさい。


 昇降口から校門まで、各部活のセンパイたちが手ぐすね引いて獲物を待ち構えているのが、教室の窓から見えた。断るのもまた面倒なんだよな。


 「他に何か決めてるの?なければ体験してきなよ!」

 「大丈夫、未経験でもお姉さんが優しく教えるよ!」

 「一緒に楽しもう!」

 「美人マネージャーもいるよ!」


 ……まあ善意で言ってくれているのは判るんだけどね。


 とりあえず、僕は同級生たちの帰宅の波が収まって、センパイたちが部活に戻るまで待つことにした。こういう時はそう、読書だ。模型のカタログが果たして読書と呼べるのかについては、また別の機会に。


 バッグからカタログを取り出して広げる。まだ見ていない後ろの方のページを開くと、そこは交換用パーツの紹介ページだった。


 なんと、壊れてしまった部品のいくつかは、別売りのパーツで交換補修できるらしい。



 これだよ!



 僕は、壊してしまった特急電車のことを思い出す。電車のエネルギー受信機、パンタグラフ。模型のそれは繊細で、セーターの袖に引っ掛けたくらいでもバラバラになってしまった。


 なんだ、パンタグラフって買えるんだ!?


 ぺらぺらとページをめくる。えっ、動力ユニットも買えるの?僕の脳裏に、力任せにもぎとってしまい元のようにハマらなくなった台車と、長時間回し続けて煙を噴いたモーターが浮かんだ。



 メーカーが補修部品を出している!その事実に僕は衝撃を受けたけれど、良く考えたら当然だよな。プラモデルだって、パーツを失くしたら、説明書に書いてある問い合わせ先に注文できるんだし。これくらいのアフターパーツがあって当然だろう。


 僕は夢中でページをめくる。特急の、絵入りヘッドマークも別売りであるんだ!?次々に訪れる衝撃の新発見に、僕は頭がクラクラする。お金はかかるけれど、色々できるじゃないか!



 「なあに、それ」



 そんなウキウキ気分の僕に、突然冷や水をかけるような声が、背後から響いた。




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