プロローグその2

 鉄道模型はお金がかかる。


 手のひらサイズのNゲージ鉄道模型でさえ、機関車一両でメーカー希望小売価格にして一万円くらいもするんだ。

 だから、高校生の身分でハマると大変なことになる。


 僕みたいに。


 お小遣いを貯め、お年玉を貯め、それでも欲しいものを全部買うなんて無理。コツコツ買い揃えたくても、メーカーからはセット売りばかりで、フル編成十両なんて買ったら数万円が飛んで行く。


 しかしそんな学生にも、救いの手はある。



 それが中古模型ショップだ。



 新品ではセット売りばかりの鉄道模型も、中古だと状態によってはパラ売りされている。ユーザー取り付けの別パーツが取り付け済だったり、シールが貼ってあったり。


 つまりは【手が入っている】と市場価値が落ちる。これが模型の鉄則だ。


 考えて欲しい。戦艦大和のプラモデルが千円で売っていたとして、じゃあそのプラモがすでに誰かシロウトの手で組み立てたものだったとしたら、同じ値段で売れるだろうか?


 模型に手を入れると言うことは、思いを込めることだと僕は思っている。だから、誰かが思いを込めたものを買うのはやはり、まっさらより数段落ちてしまう。僕はそういう風に思ってる。



 しかし、しかしですよ。



 実際の電車は、運用や電車区の都合などで転属なんてことがある。編成を伸ばしたり縮めたり、ダイヤ改正で必要になったり不要になったり。出自の異なる車両が混ざることなんて、珍しいことじゃない。


 だから、例えば僕の持っている国鉄485系特急電車六両編成の模型に、中古ショップで食堂車やグリーン車を買って組み込むなんていうことも、【運用都合による転属】みたいな理屈ですんなり飲み込めるのだ。


 よその誰かの電車区から、僕の電車区へと転属。


 受け入れたら整備だ。僕の所に前からいた車両と合うように手を入れる。不要なシールを剥がし、車番のインレタも好みのものに貼り変える。この時間がまた楽しいんだよね。



 一両一両個別にビニールに包まれた、セットでは売れない状態の中古車両。千円から三千円くらいで買えるのでリーズナブルにも見えるけど、安いのには理由もある。


 前の持ち主がぶきっちょで、パーツ取り付けの接着剤がはみ出していたり、シールが曲がっていたり、部品がそもそも足りなかったり。大抵の場合は飲んクレームノンリターンの【ジャンク品】として売られているのがその証拠だ。



 だけど僕は、ジャンク品をかき分けて欲しい車両を探すのだ。




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