41、修行の成果

 光次くんが、くまのぬいぐるみと向き合う。他に何かあるんじゃとか、せめて場所を変えた方がという正人くんの言葉は、これがいいのよとか、ここでいいのよとかいう花子ちゃんの言葉で切り捨てられた。

 ぼくは、まったくもうとか言いながらぼくを抱え上げてくれた正人くんと一緒に、部屋の端に寄っている。

 光次くんの鎌が光って、花子ちゃんが飛びのく。光次くんが飛んでくまのぬいぐるみに刃が当たって、くまの首は、ぶつっと大きな音を立てて飛んだ。

「わぁ。わぁ!……やったぁ!おれも、おれもちゃんと斬れるんだ!」

 ぴょんと飛び跳ねた光次くんが、すぅっと体を薄くして消えていく。

「えっ!?」

 驚くぼくに、花子ちゃんがため息をついた。

「鎌鼬っていうのはね、三匹の怪なんだったら、それで一つの妖怪なのよ。一匹だけ離れて長く旅をするなんてできないの。だからもし次男が旅に出たとしても、何日も持たずに元のところに戻っちゃうと思うわよ。だからあれは多分、強くなりたいって気持ちだけが残ってしまった幽霊みたいなものだったのよ」

「ぬいぐるみをばっさり斬ることができたから消えちゃったの?」

「そういうこと」

 ばっさり斬られて綿が飛び出してしまったぬいぐるみは、必要な犠牲だったんだね。

「うーんでもこれ、縫い直さないとな」

 正人くんの言葉に、花子ちゃんがにっこり笑う。

「それなんだけど、ひとつ考えがあってね」

 花子ちゃんが、にっこり笑ったまんまぼくの首を抱えて、ぬいぐるみの体に乗せる。ふかふかの綿が、少しくすぐったい。

「虎郎、あなたこれを体にできるんじゃない?」

「ふへ?」

「妖怪のできることとできないことって結構きっちり決まってるんだけど、あなたならできる気がするのよね」

 だってあなたちょっと変だもの。と、花子ちゃんが言う。ぼく、変なんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る