40、力試し

「斬ってしまうと思って、慌てて刃はしまったのに。ゴロンと首が落っこちちゃったから、慌てて追いかけて、だけど見つけきれなくて、体のところに戻ったら、体もなくって」

「体もなくって!?」

 ぼくは思わずそう叫んでしまう。

「うん。それに、何だかどきどきして怖くなって、周りをあんまり探せないうちに、その場にいられなくなってしまって」

 光次くんの言葉で、ぼくは目の前に向かってきた刃物を思い出した。びっくりして目を閉じて、衝撃で首が落っこちて、ごろごろ転がってしまったことを。そのあと自分に何が起こったか思い出せずに、ふらふら宙をさまよって、最後に川に落っこちてしまったことを。

 だけどひとりでに動くはずがないぼくの体がその場所になかったんだったら、ぼくの体って、どこに行ってしまったんだろう。

 そんなことを考えているぼくの前で、花子ちゃんが「力試しをしたいのね」と光次くんに言っている。

「妖怪相手でも鎌鼬の鎌は結構痛いと思うから、斬ってみるのはお勧めできないわね」

「……そうなのか」

「えぇ。でも、いいものがあるわよ」

 立ち上がった花子ちゃんが、くまのぬいぐるみを持ち上げた。ぼくは油断していて転がり落ちて、くるんと一回転した後にぴょんと浮かぶ。

「この子、ぬいぐるみだけど、綿がぎっちり詰まってて、なかなか斬りごたえがあると思うわ。力試しにはぴったりだと思うわよ。そうね、この首の辺りなんて、狭いところに詰まってるからちょうどいいんじゃないかしら。首を飛ばすことができたら、大体の力加減も掴めるんじゃない?」

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