35、贈り物
幽霊さんが、はー。と、長ーく息を吐いた。
「何だか長い時間をかけて、この家は私に持ち帰るものをくれたんだね。律儀なんだか何なんだかだな。私の帰る場所はここになったってのにね。それともあれかな、これで私成仏しちゃったりするのかな。心残りだと思ってた自覚はないんだけど」
「成仏、は、多分しないんじゃないかと思うわよ。どっちかというと心残りがあったのはマヨイガの方でしょうし、その時点であなたはただの幽霊じゃないし」
「マヨイガが満足したから消える。っていうのもないの?」
ぼくが花子ちゃんの手の中で上向くと、花子ちゃんは体ごと左右に揺れる。
「ないでしょうね。マヨイガにできるのは、招くことと与えること。追い出すことは範疇外だもの」
「そーなんだ。さすが、やっぱり花子さんは博識なんだね」
幽霊さんが笑う。花子さんって、有名なのかな?
「トイレの花子さんでしょ?子供にとっては有名人だよ。子供を見守ってくれたりくれなかったりするってアニメかなんかもあったよね。私の記憶だと、スカートは赤色だった気がするけど」
花子ちゃんのスカートは灰色だ。
「赤はちょっとねぇ。あたしは好きじゃないのよね」
「花子ちゃん、そんなに有名だったんだね」
「色んなあれこれが混ざりこんで情報通になっちゃう程度にはね」
そんなことより、と、花子ちゃんが言う。何だか不機嫌そうな声だったけど、ぼくが上を向こうとしたらがっちり掴みなおされてしまったので、花子ちゃんの顔を見ることはできなかった。
「しれっと正人がいなくなってるんだけど」
「あ、さっき外に出て行ってたよー」
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