34、お友達

「え、でも、でもさー。あの子がここに来たのって偶然だと思ってたんだけど」

「それは偶然だと思うけど」

 ぼくの言葉に、幽霊さんがえー?と不満そうな声を上げる。

「じゃあ偶然なんじゃん」

「そこはそうなんだけど、そうじゃなくって」

 ぷぅと口を尖らせた幽霊さんに、ぼくはどう説明したらいいかなと考える。人の常識はぼくにはちょっぴり難しいんだよね。

「何となく腑に落ちたわ」

 そうしたら、花子ちゃんがぼくの首をぎゅっと握ってそう言った。

「あたしたち、というか正人は招かれたのね。ぬっぺぽふとあなたに文字という選択肢を与えるために」

 マヨイガができるのは、家に招くことと何かを与えることだ。招いた後にその人が訪れるかどうかはその人次第で、強引に連れてくることはできない。幽霊さんは招かれてここに来て、何でも欲しがったけど何も欲しがっていなかった。欲しいのは誰かとのつながりだったから。幽霊さんは帰らずに死んでしまって、欲しいものだけが残ってしまった。それでマヨイガはお友達を求めて色んな所を旅して、最後にやってきてくれたのがぬっぺぽふさん、だったんだろう。

「でもあのぬっぺぽふは口を利けなくて、意思を伝えあうことが難しかった。だから解決策を持ってる正人を招いたのね。招いてくれなかったら、あたしでも多分気づけなかったんだと思うわ」

 花子ちゃんの言葉に幽霊さんは黙って、黙ってちらっと庭の方向を見て、友達か。と呟いた。

 友達。友達か。私、友達が欲しかったんだ。

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