32、お土産
「正人、好きなのを選びなさい」
「え、僕?」
「だってこの中じゃ人間なのってあなただけじゃないの」
マヨイガは、そこにたどり着けた人に欲しいものを与えてくれる場所だから、つまり相手にしているのは基本的に人なんだ。ぼくたちもダメってことはないと思うんだけど、一番ふさわしいのは正人くんだ。
「おっいいね。案内するよ。私の後では初めてのお客さんだからね。きっと張り切るぞ」
「特にほしいものはないんだけど」
「そのまま帰って川から流れてくるのを待つ?結構マニアックだね。それでもいいしそうするとこの家のセンスが分かって面白いかもしれないけどさ、まぁ選びなよ。何しろ最後の客の私が選びきれなくてこんなになっちゃって何も渡せてないんだからさ」
幽霊さんが、正人くんの肩を抱くようにして家の中に入っていく。よく考えたら、触ることができる幽霊って結構珍しいかもしれない。
綺麗な家は、中もピカピカで、どこにも汚れなんてなかった。綺麗に片付いていて何もないような部屋の中、思いがけないところに引き出しがあったりして色んなものが入っている。
「探検するのも楽しくて、どこに何があるかなとかまだ見つけてないものがあるんじゃないかなとか探検してる間に死んじゃったんだよね私。死んだ後も探検できるんだから幸せでしかないんだけど、君はそうなっちゃ駄目だよ」
「肝に銘じるよ」
そんなことを言いながら正人くんと幽霊さんは家の中をぐるりと回って、幽霊さんが色んなものを見せてくれたけど、正人くんはたった一つだけ、ある部屋にあった机の引き出しを開けた。
「頂けるならこれがいいな」
入っていたのは、シンプルな硯だった。
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