31、文字

「お、いけるかも」

 幽霊さんが本を受け取って、ぬっぺぽふさんの前に開く。これが文字だとか、しゃべる言葉をそのまま書けるとかそういうことを言う。ぬっぺぽふさんは本を覗き込むように体を曲げて、それからおもむろに地面にしゃがみこんだ。

 短い、手のようなものがぷるぷる震えて、それからふるふると首を振るみたいに体を震わせる。その姿が消えたかと思ったら、次に現れた時には手に木の棒を握っていた。

「えっ今何が起きたの?」

「この子、めちゃくちゃ早く動けるんだよ」

「移動してたんだ」

 ぼくたちが見守っている真ん中で、ぬっぺぽふさんがもう一度しゃがみこむ。ふるふる震えながら棒が地面に当たって、数回地面を削り取った後、ゆっくりと書かれたのは「あ」の文字だった。

「おーすごいじゃん書けるじゃん。これで意思の疎通ができるね」

 幽霊さんがそう言って、ぼくたち三人はほっと息を吐く。何だか息をつめて見守ってしまってたな。

「ありがとう。助かったよ。せっかく関わってるんだからうまいこと意思疎通していきたかったんだよね。この家はそういうのは無理っぽいけど、この子はね」

「いいのよ」

 花子ちゃんがにっこり笑う。今回活躍したのは正人くんのような気がするんだけど、正人くんは黙ったまま、にこにこ笑っていた。

「何かお礼をしないとね。つっても私は何にも持ってないし、この家のものでも持っていきなよ。あぁでもそれってここに来た時点でもらえるものだからお礼になんないか」

「いいわ。何かもらっていきましょ」

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