30、ぬっぺぽふ

「この子さぁ、気づいたらここにいて、声を掛けたら反応するし、何か言いたげな時もあるんだけど、何しろ意思の疎通がほぼできなくて、私の言葉がちゃんと通じてるのかとか言いたいことがあるのかとか色々分かんなくてさ、そういうの分かるなら教えてほしいなーって。ぬっぺぽふ?っていうの?この子」

「そうね。ぬっぺぽふっていうのは、何だか分からないものなのよね。しわが多くて手足の生えた芋とか、肉塊とかいうんだけど、何しろよく分からないもの。話ができる個体もあるんだけど」

「この子は無理なんだと思うな、口、ないし。……目もなさそうなんだけど、どうやって私を認識してるかは分かんないんだよね」

 でろんとした肉の塊の中で目とか鼻とか口とかに見える部分は、全部ただのしわなんだそうだ。幽霊さん、確かめたんだね。

「どうなっているのかは分からないけど、見える。ってことなのかな?」

「どうなんだろ。見えてるの?きみ」

 正人くんの言葉に、幽霊さんがぬっぺぽふさんを見る。ぬっぺぽふさんは少し体を反らせるようにした後、こくんと頷いた。ように見えた。

「見えてるんだと思う」

「見えてるし、通じてるみたいだね。じゃあ文字を書いてもらうのはどうかな?」

「文字、あぁそっかそうだね。きみ、文字を書いたことは、うん。なさそうだね。分かんないか」

 幽霊さんの言葉に、ぬっぺぽふさんはぐんにゃり体を傾げて見せる。これ参考にならないかな。と正人くんが取り出したのは、ひらがなの本。ここに来るときに、文字が書けないというカガミちゃんが、車の中で読んでいた本だった。

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