29、迷い子
「ここに来てからかな?迷い込んできた子がいるんだけどさ、意思疎通ができなくて。いや少しはできるんだけど言葉が通じてるんだか何なんだか分かんなくて」
そんなことを言いながら、幽霊さんが家の周りをぐるりと回る。玄関を通り過ぎてさらに向こう側。家の壁はどこも真っ白で、キラキラしていた。
すたすた音がしそうな勢いで、だけど足がないので音もたてずに歩く幽霊さんに、ぼくたちはついていき、家の裏側にあたると思われる場所にたどり着く。
「うわ、すごいな」
正人くんが思わずといった感じで声を上げる。たどり着いたのは広いお庭だった。池があって大きな錦鯉が泳いでいる。桜の花が咲き誇っている横で、紅葉が真っ赤になっている。何というか綺麗なものが綺麗な瞬間を切り取って集めたみたいな空間が、そこには広がっていた。
そんな場所にざくざくと、ぼくたちは足を踏み入れる。足があるのは二人だけだけど。
「正人、手」
花子ちゃんがそう言って、正人くんに手を差し出す。正人くんがその手を握った。そのままもう少し進む。
「あ、いた。おーい」
幽霊さんが手を振る。その先に、何だろうか、白っぽいピンク色みたいな、そんな色で、どろりと溶けたお肉みたいなそんな形をしたものがあった。その一部が動いて、横に揺れるように動く。あれは、手なのかな。
「あら、ぬっぺぽふだわ」
花子ちゃんが、気の抜けたような声でそう言った。
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