21、山の中

 ぼくと花子ちゃんと正人くんは、森の中を歩いていた。ぼくは歩いていないけど。浮かんでたり、花子ちゃんに抱っこされてたりするけど。

 そんなぼくたちの前を、五歳くらいの小さな女の子が歩いている。あちこち継ぎをあてられた着物を着て、草履をぺたぺた言わせながら歩いている。


「つりびとさんが来なくなったのです!」

 くまのぬいぐるみを背もたれ代わりに座った女の子がそう言って、ぺちんぺちんとテーブルを叩いた。

「置いてってもらえないのです!ゆゆしきじたい!」

 女の子が揺れるたびにくまのぬいぐるみも一緒に揺れて、ぐらぐら倒れそうになっていた。

 女の子はカガミと名乗った。鏡池という池に住んでいる置行堀なのだそうだ。

「置行堀っておいてけ堀以外にもいるんだ?」

「おいてけはおいてけ堀だけのせんばいとっきょじゃないですよ!」

 ぷくんと頬を膨らませたカガミちゃんが、またぺちんぺちんとテーブルを叩く。くまとテーブルがぐらぐら揺れた。

 置行堀。釣りをした人間に、釣果をおいていけと声をかけて魚を奪い取ってしまう妖怪であるという彼女は、とある池に住んでいるらしい。置行堀がいるくらいなので、池では魚が釣れる。山の中にある池なので、知る人ぞ知る、という感じで、時折釣り人が訪れる。そんな場所だった。のだけど。

「だーれも来ないのです。一年間!置いてってもらわないとおいしいお魚食べられないのです!釣りをしに来いなのです!そしておいてけなのですー!!」

 そして今に至る。というわけだ。

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