20、猫

 小さな袋の中身はすぐに食べ終えてしまって、猫さんはそのまま顔を洗い始めた。ぼくはその姿をじーっと見る。尻尾は一本しか見えないけど。

「この子は猫又さんなの?」

 ぼくの言葉に、猫さんがぶにゃーと鳴く。それからべしべしとぼくを叩き始めた。

「あだっ、たっ、ぶぶっ」

「猫又なんかと一緒にしちゃだめよ。この子は座敷童なんだから」

「いたたた、ごめんなさい。えっと、座敷童、なの?猫の?」

 謝ると、猫さんは前足を下ろしてツンとそっぽを向く。かなり怒らせてしまったらしい。

「猫の座敷童がいても別に変じゃないでしょ」

「変じゃないけど、初めて見たよ」

 ツンとした座敷童さんは、名前をカロンというそうだ。正人くんが名前を付けたのだって。首につけた鈴が、チリチリとはならずに、時々カランと音を立てるから、それでカロンと呼んでいるらしい。この子がいるから、正人くんは生活に困らないんだそうだ。

「え、でもこの子、カロンさんって、ここに住んでるわけじゃないよね?」

「猫ってのは、色んなところに住まいを持ってるものでしょ?」

「そういうものなの?」

「そういうものよ」

 カロンさんは、いくつかの家を持っていて、それぞれをちょっとずつ豊かにしてくれているらしい。

「正人はただの猫だと思ってるから、内緒にしなきゃだめよ」

「うん」

 ツンとすましたカロンさんが、その通りとでも言うように、小さく鳴いた。

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