18、お礼

 ごゆっくり、と声をかけて正人くんが戻っていくと、はやてくんはちょっぴりきょろきょろした後に何故かくまのぬいぐるみを掴んで、花子ちゃんの向かいに座った。

「はやてくんは、お家、出てきて大丈夫なの?」

「多分めちゃくちゃ怒られると思う。でも最後にするから」

 くまのぬいぐるみがないので、ぼくはこの間とは違って、テーブル横に用意された座布団の上にちょんと乗った。

「おかげであいつ、また野球するようになったんだよ。だからありがとうな」

 はやてくんのお友達は、キャッチボールをしなくなったのと同時に野球自体をやめてしまっていたらしい。コントロールがどうとかこうとか?言っていたけれども、ぼくは野球には詳しくないからよく分からない。

「あら、良かったじゃないの」

 何をどこまで知っているのか分からない花子ちゃんが、にこりと笑ってそれだけ言う。はやてくんはこくりと頷いて。ポケットから小さな袋を取り出した。

「これ、お礼。少なくて悪いな」

「お礼はあなたの精一杯で、って言ってあるんだから、少ないなんてないわよ」

 はやてくんから袋を受け取った花子ちゃんが、ふふふと小さく笑う。

「確かに頂きました」

 抱えたくまの手を握って、ぐにぐにと揺らしていたはやてくんは、ほっとしたように息をついた。

「はやてくん」

「おぅ、なんだよ虎郎」

「何か今日、目が合わない気がするんだけど」

「そりゃお前さ」

 くまをぎゅっと抱きしめたはやてくんが、ぼくをちらりと見て、また目をそらす。

「この間もめちゃくちゃ言いたかったけど、丸くて転がるやつは俺には目に毒だよ。狼に戻ってじゃれつきたくなっちまうから」

「だから転がってると蹴られるわよって言ってるでしょ」

 はやてくんと花子ちゃんにそれぞれ言われて、ぼくは無意識にころころ転がっていた動きを止めた。

「踏まれる。じゃなかったっけ、花子ちゃん」

「細かいことは気にしないのよ」

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